トヨタ生産方式を形だけ導入しようとしても成功しない。うまく機能させるには、カイゼン哲学を共有し、不断の努力を続けなければならない。そして、その背景には、トヨタに脈々と受け継がれる労使間、社員間の徹底した対話文化がある。トヨタ労組の書記長や自動車総連の会長などの要職を長年務め、『トヨタの話し合い』を上梓した加藤裕治弁護士に、トヨタの現場の情熱や創意工夫の秘密を聞く。
真因をつかむ
「なぜ?」を5回のルール
会社に対する信頼感の有無は、仕事上の失策をしてしまったときなどのネガティブなシーンにも表れる。
実にトヨタらしいと私が思うのは、現場のラインでちょっとした不都合やトラブルが発生したときの対処法である。
たとえば、部品切削ラインでコンベヤーに小さな部品が引っ掛かり、ライン停止を起こしてしまったとしよう。
引っ掛かった部品をすぐに手で戻せば、ラインはすぐに動き出すので、なんということもない。おそらく、車に限らず世の中の生産工場の大半はそのように対処し、何事もなかったかのようにラインを動かし続けるのではないだろうか。
トヨタの場合、こうした対処法はご法度、絶対にやってはいけない論外の対処法なのである。
コンベヤー停止が小さな部品の引っ掛かりによって起こったことがわかっているなら、その部品を元に戻せば、コンベヤー停止という現象は当面解決するかもしれない。しかし、それはあくまで「そのとき、その場で起こった現象」を修正したにすぎない。
これでは、あまりに浅い問題解決法である。同じ現象がまた起こる可能性は消えていない。トヨタではこれを問題解決とは言わない。