この連載では、安倍政権の経済政策「アベノミクス」を、「カネが切れたら、またカネがいる」という、規模が異次元なだけのただのバラマキと批判してきた(第163回)。首相がそれを繰り返した理由は、国政選挙から国政選挙の間があまりに短期間だったからだ。
国政選挙の間が短いことは、国民の側にとっても問題が多い。国民に政策を理解する時間的な猶予が与えられていない。消費増税の是非に対する判断も、経済財政政策の評価も、短期的な観点からしかできなくなるからだ。言い換えれば、日本の選挙で、長期的な観点から財政健全化や成長戦略の効果が争点として検証されたことは一度もない。それが、「先進国最悪」と呼ばれる日本の財政赤字の一因となってきたのは明らかだ。
劇的勝利を収めたわずか1年後に退陣
経済財政の運営が高い評価を得て、15年5月の総選挙でキャメロン首相率いる保守党は劇的な勝利を飾った(第106回)。だが、首相はわずか1年後に退陣することになるとは、夢にも思っていなかっただろう。
英国は16年6月、英国のEU離脱の是非を問う国民投票を行い、「EU離脱」が僅差ながら過半数を占めた。EU残留を支持していたキャメロン首相は敗北の責任を取り、国民投票直後に退陣した(第134回)。
「政策の成果を問う」総選挙で、高い支持を得て勝利していたキャメロン首相が国民投票に敗れたのは、国民投票がまさに「将来の期待を問う選挙」だったからだと指摘できる。
離脱派は、英国のEUからの主権回復や移民制限、EU拠出金を国民健康保険(NHS)の充実に使えるなどの「期待」を訴えた(第198回・P.4)。国民は誰も「EU離脱」を経験したことがないので、離脱派の主張が正しいかどうか分からなかった。
その上、総選挙に勝利して経済財政運営に自信を深めていたキャメロン首相が、再び緊縮財政を強めていた。そのため、国民の間でキャメロン首相への不満がまた高まった。国民投票はそのわずか1年後で、まだ政策の成果を国民が判断できる段階になかった。その結果、国民は残留派が示す「現実」よりも、離脱派が訴える「期待」を選択してしまったのだ。