身のまわりにある「ハッピードラッグ」とは?

「え、だって、麻薬は悪いことだし……」
「それは現在の『副作用のある麻薬』の話だろう。いま議論しているのは、あくまでも『副作用のない麻薬』の話だ。もし、『まやく』という語感がどうしても受け入れられず、悪いことだという印象を拭えないなら、全然別の名前にしてもいい。そうだな、ハッピードラッグなんてどうだろう」

 いやいや、ドラッグがついた時点でけっこうアウトな印象になってますよ、先生。
「でも……、そんなものがあったら、それで気持ち良くなることだけが、生きがいというか人生の目的になって、それはそれでマズいような」

「どこがマズいのかな?」
「え……」

「いや、意地悪な訊き方をしてすまない。いま正義くんは、ハッピードラッグを得ることが人生のすべてになってしまうのは不健康ではないか、という問題提起をしてくれたわけだが、でも実はハッピードラッグなんて、気づいてないだけで我々の日常にたくさん溢れている」

「たとえば、お酒、タバコ、コーヒー。それ以外にも、音楽、ゲーム、映画、旅行、ドライブ、ショッピング。このあたりはみな、まさにハッピードラッグではないだろうか」

 あ……と思った。なんで大人がお酒を飲むかと言えば、それはきっと、副作用に比べて気持ち良くなれる度合いの方が大きいからだ。その意味で、お酒はまさにハッピードラッグだと言える。そして、ゲームや映画や旅行などの娯楽……。人間が働いてお金を貯めて何に使うかと言えば、結局は、こうした娯楽……つまり、快楽を得るためだ。

「キミたちが生きるために必要な時間―睡眠や勉強や労働などの時間だが―これらを抜いた自由時間が、まさに個人的に使える『人生の時間』だと言えるわけだが、キミたちはこの時間を実際何に費やしているだろうか。もしくは、何に費やしたいと思うだろうか」