苦労というより、でっかい装置で時代と戯れているという感じでした

【大江千里インタビュー2】「男ユーミン」と呼ばれ、メガヒットを飛ばしたポップス時代を捨てて

――当時の音楽市場の大きさはすごかったですよね。そしてヒットを生むアーティストのグループに「大江千里」が燦然といた。スタジアムでコンサートをやって、スタッフも何百人もいただろうし。動いてたお金も半端なかっただろうし。音楽ビジネスがメガだった。

 スタジアムコンサートをやれるアーティストって歴史的にも数えるほどだと思うのですが、あの頃って、どんな感じだったのですか。

大江 エピソードはいろいろありますよ。暗転になったブレイクで、舞台のいちゃいけない場所にいたり。一番怖かったのは、僕がYOUのブレイクの後、君を抱きしめてたいって歌いだすのが合図で、花火が点火して打ち上がる演出があって。

 そのとき、花火の真横にいちゃって。

――こ、怖い!

大江 暗転でポーズを決めているときに、あ、耳の数センチ隣に花火があるって(笑)。スタジアムの数万人は盛り上がっている最中で。ちょっとすみません、って動けないじゃないですか。オーロラビジョンに大きく映されているし。それで耳を両手でふさいだままジャンプして歌い出したら、一緒に打ち上がった花火の風で2~3メートル飛ばされて。

 そのままボーッと倒れていたら、それがそのままオーロラビジョンに写されていて観客のみんなは「今日の千里はいつもと違うすごいノリだ。もっともっと行け、千里!」みたいなものすごい盛り上がり(笑)。

 でも僕は耳鳴りで倒れこんでいる最中な訳です。もちろんそのまま時間稼ぎしました。いつもと違うすごいノリで(笑)。

――命がけじゃないですか。

大江 耳がやられていて伴奏が聞こえず歌えないんですよ。そこで苦し紛れに「みんなの声が聴きたい!」ってマイクをお客さん側に向けると言う裏技(笑)。

――あははは。笑い事じゃないけど…。

大江 こんなこともありました。雨の日の横浜スタジアムで、滑り棒の半分目の途中で一瞬止まらないといけないのに、僕の滑り棒が濡れていて、途中で演出通りに止まれず勢いよく下までどーんと落ちて。そのショックで目がチカチカして痛いから歌えない。意識が朦朧としながら、またそんな時、困った時の……「みんなの声が聴きたい~」(笑)。

――そんなご苦労があったとは。

大江 苦労っていうよりは、シリアスで壮大なギャグ。泣き笑い(笑)。良く言うとでっかい装置で戯れているという感じ。時代と戯れているとでも言うような。