ところが、こうしたブームに乗れる国内メーカーがある一方で、日本の造船各社には冷たい風が吹く。船価が利益を取れるレベルに浮上しない中で、韓国勢がなりふり構わぬ安値受注を仕掛けているからだ。

 造船も大方のものづくりと同じく、同じものを大量に生産した方が調達力も、製造における習熟度も上がって生産効率がアップする。ところが、連続建造の能力でいくと、年間10~20隻のLNG船をまとめて請け負える大規模な設備を持つ韓国勢が、年間数隻しか造れない日本勢に圧倒的に勝っている。

 そもそも、造船業が雇用確保を目的とする国策となっている韓国では、新規案件の受注確保は絶対。「日本が世界貿易機関(WTO)に紛争解決を要請してもなお続いている」(重工メーカー役員)という国による造船会社に対する公的助成の後押しもあって、「日本より1~2割安い価格を提示してくる」(別の重工メーカー幹部)のが現状なのだ。

2~3割のシェア獲得を狙う川重も
建造のメインは中国

 重工メーカー関係者は、「韓国勢も今の受注価格では黒字は出ないはずだ」と口をそろえるものの、いずれにしても、価格面では韓国勢に完敗状態だ。激しい消耗戦を前に、日本の総合重工系の造船各社は戦々恐々としている。LNG船の「国内建造事業」から撤退するのか、あるいは競合と組んで再編するのか。重大局面を迎えつつあるのだ。

 JFEホールディングスとIHIを2大株主に持つジャパン マリンユナイテッド(JMU)は、「失敗の反省や確かな事業性分析が終わるまでは、LNG船の受注はしない」(JMU幹部)と明言する。LNG船の建造難航による工事費高騰を主要因とし、2017年度に694億円もの最終赤字を出したJMUとしては、無理からぬ判断ではある。

 傘下の三菱造船や三菱重工海洋鉄構で造船事業を行う三菱重工業も同様だ。船台を埋めるために無理に受注した大型客船の工事の大混乱で、累計2719億円もの巨額損失を計上した負の歴史の教訓から、「無理な受注は二度としない」(三菱重工関係者)との思いは強い。

 川崎重工業と三井E&Sホールディングス(旧三井造船)傘下の三井E&S造船については、LNG船の受注自体は狙っていく構えだ。ただし、この2社も建造のメインはコスト効率の高い中国だ。

「LNG船で世界シェア20~30%を取る」。10月2日、未完だった中期経営計画の詳細編をようやく出した川崎重工では、餅田義典・川崎重工業船舶海洋カンパニープレジデント(「餅」の字の食偏は正式には終端部が縦画からの撥ねに点画の形)が鼻息荒いLNG船の受注目標を述べた。だが、川崎重工が連続建造できる6隻程度のLNG船のうち、少なくとも4隻は中国の造船合弁会社である大連中遠海運川崎船舶工程(DACKS)で建造する算段なのである。

 三井E&S造船も、競争が比較的緩やかな中小型のLNG船の受注に絞り込んだ上で、建造は中国の揚子江船業集団、三井物産と共に今年、中国に設立した造船合弁会社、江蘇揚子三井造船で行う考えだ。