「香港に栄光あれ」と書かれた横断幕を掲げて行進するデモ隊 Photo: AP/AFLO

 香港は長きにわたり、アジア経済、グローバル経済の発展において不可欠の役割を果たしてきた。だが、中国本土とそれ以外の世界の橋渡し役としても、グローバルなビジネス・金融の神経中枢としても香港の未来は今、危機にひんしている。

 香港はこれまでずっとグローバル企業が歓迎される土地であり、もめ事が生じても公正で透明性の高い形で、法の支配に基づいて解決された。もはやそれが通用しないとなれば、中国・アジアにとって、またグローバルなビジネス・金融にとって、そして特に香港市民にとって、非常に大きな損失ということになるだろう。

 (本稿執筆時点で)17週間続いている香港のデモの発端は、いわゆる「逃亡犯条例」に対して、多くの市民が香港の司法制度に中国本土の影響が及ぶのではないかという懸念を抱いたことだ。さまざまな抗議グループと香港政庁を調停するプランがまったく存在しなかったことが、いっそう懸念を高める結果となっている。

マイケル・スペンス(Michael Spence)
米国生まれの経済学者。2001年にジョージ・アカロフとジョセフ・スティグリッツとともに、情報の非対称性に関連する業績によってノーベル経済学賞を受賞。2010年9月よりニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネス教授。スタンフォード大学フーバー研究所のシニアフェローも務める。

 そうしたプランには、少なくとも2つの要素が必要である。第一に、すべての当事者(この場合は中国の中央政府も含まれる)が、「一国二制度」という枠組みを再確認する必要がある。第二に、恐らくもっと重要な点として、政府、企業、そして影響力の大きい香港金融界が連携して、格差の拡大と、すでに生活が困窮している人々にとっての機会喪失に対処するような積極的なプランを策定すべきである。特に緊急に求められているのは、若年層向けの低価格住宅だ。

 インクルーシブ(包摂的)な成長パターンを回復する必要に迫られているという点では、香港は特別な存在ではない。近年、高所得国の多くでは、経済格差の拡大、それに続く社会の分断、既存政党やエリート層に対する広範な拒絶反応が見られる。

 香港のデモとフランスの「黄色いベスト」運動のあいだには驚くほどの類似点がある。後者は、ディーゼル燃料に対する小幅な増税が引き金になったが、運動に勢いを与えたのは、経済格差と将来の展望が見えなくなっていることに国民の一部が抱いていた深い不安である。