リーマンショック時のセコイアの訓え、ふたたび

小林:具体的に備えるといった場合に、前もってどのように準備しておくのがいいのでしょうか?

朝倉:前提として、「ベンチャー投資がバブルだ」と言われているのは、2019年の今に始まったことではなく、2015年頃から言われ続けていることです。国内ベンチャー投資額が700億円にも満たなかった2010年頃に比べると、今は信じられないくらい、投資額が集まるようになりました。それに伴い、ここ3、4年はずっと「近い内にベンチャー投資バブルが崩壊するだろう」と言われ続けているように感じます。

最も直近の「冬の時代」は、2008年リーマンショック後のタイミングでしょう。当時、セコイア・キャピタル(アメリカの老舗VC)が投資先のベンチャーCEOを集めて行ったプレゼン資料は、今も尚、一見の価値があります。

何が書かれていたかというと、まず1点目が、「コントロールできるものをマネージしよう」ということ。分かりやすくは、コスト削減ですね。成長や収益の前提など、アップサイドも含めて、より保守的な計画を立てようと述べています。

2点目が、「クオリティーにフォーカスしよう」ということです。これは何もダウントレンドの時に限らないことですが。

3点目は、「リスクを下げる」ということ。不確実性が高いリスクのとり方を限定的にしようということですね。そして最後に、「負債を減らそう」ということです。これらは、今から10年以上前に、セコイアが投資先に伝えたものですが、今も十分に通用する内容でしょう。

村上:そうですね。リーマンショック後の状況を振り返ると、厳しいファイナンス環境になればなるほど、ファイナンスで差がつく可能性があるということが言えるかと思います。全ての会社がうまくファイナンスできるわけではないので、ファイナンス的な思考が強い会社は、有利に人材獲得やマーケティングを行うことができ、事業上優位に立てる可能性が相対的に高まるでしょう。

未上場企業は、ファイナンス環境が厳しくなることによって、IPO市場でイグジットできるかどうかをより意識するようになるかと思います。未上場企業の投資家も、上場後の投資家目線で、ビジネスモデルが成り立っているか、長期的にサステイナブルな事業かなどを具体的に検証した上で、IPOが可能かどうかを見極める必要があります。

WeWorkのケースは、そこが少し甘かったのかもしれませんね。これはWeWorkに限らず起きていることですが、コンセプトだけで資金がついていた感は否めません。具体的に戦略に落とし込んで、ファイナンス的な言語で話ができるかどうかが、今後はより重要になってくるでしょう。事業戦略や事業計画、ストーリーの作り込みなど、プロダクトではなく、戦略の部分をしっかりと備えられるかどうかが、事業成長の差として表れるような気がします。