「親子のクジラ」が見えますか?

「ねえ、クジラがいるみたいに見える」
――どこからそう思う?
「絵の下のほうに青いクジラがいる。赤い点が目で、口をパカっと開けている」
――そこからどう思う?
「無邪気な感じでかわいい!」
「子どものクジラみたい」
「クジラの口から、放射状に水しぶきが出ている」
「水しぶきのなかに、小人のようなのがいるよ」
「小さいマーメードが見えた」
――どこからそう思う?
「茶色い髪、黄色のドレス、青いハープを持っている」
――そこからどう思う?
「なんか物語がつくれそう。海のなかが舞台のファンタジーみたいな」
「左上に海に沈む夕日が見えた! 逆さ向きの景色」
――どこからそう思う?
「海がオレンジ色に染まっているから。波のような模様もある」
「あ、巨大なクジラがいる!」
――どこからそう思う?
「絵を逆向きに見て。ちょうど中央あたりに、黒い円で囲まれた目玉がある。はっきりとした輪郭はないけれど、ごちゃごちゃした模様全体が身体。左を向いた大きなクジラに見えてくるよ」
「見えてきた! ちょうど右上に尾ヒレみたいなものもある」
――そこからどう思う?
「クジラの身体にゴミが詰まっている。ゴミをたくさん飲み込んじゃったクジラ」
「明るい絵だと思っていたけれど、環境問題を感じさせる」
「大きいクジラと、子どものクジラだね」
――そこからどう思う?
「親子かな。小さいクジラは口から光と水のしぶきを出して、汚れた海をキレイにしているんじゃないかな。そんな物語がつくれそう……」

いかがでしたか?

「ごちゃごちゃとしていて、なんだかよくわからない」という印象で終わりそうな絵も、「アウトプット鑑賞」と「2つの問いかけ」を組み合わせると、いろいろなものが見えてきたのではないでしょうか。

みなさんもアート作品を見るときには、ぜひこのような問いかけを試してみてください。「何も感想が持てない……」と悩んだときにも、「そこからどう思う?」「どこからそう思う?」の問いは、きっと役に立つはずです。

■執筆者紹介
末永幸歩(すえなが・ゆきほ)

美術教師/東京学芸大学個人研究員/アーティスト
東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。
東京学芸大学個人研究員として美術教育の研究に励む一方、中学・高校の美術教師として教壇に立つ。「絵を描く」「ものをつくる」「美術史の知識を得る」といった知識・技術偏重型の美術教育に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方を広げる」ことに力点を置いたユニークな授業を、都内公立中学校および東京学芸大学附属国際中等教育学校で展開してきた。生徒たちからは「美術がこんなに楽しかったなんて!」「物事を考えるための基本がわかる授業」と大きな反響を得ている。
彫金家の曾祖父、七宝焼・彫金家の祖母、イラストレーターの父というアーティスト家系に育ち、幼少期からアートに親しむ。自らもアーティスト活動を行うとともに、内発的な興味・好奇心・疑問から創造的な活動を育む子ども向けのアートワークショップ「ひろば100」も企画・開催している。著書に『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』がある。