取引量が1.6倍に増えた理由は
生産者と消費者との「つながり」の強さ

 危機だから、必要に駆られて出品したり、インターネットからの購入を増やしていたりする面もありますが、ポケマルの場合、生産者と消費者との「つながり」が強いために取引量が増えているのが特徴です。

 小池百合子・東京都知事が3月25日、会見で週末の不要不急の外出自粛を要請すると、スーパーの棚から食品が消えました。こうした中、ポケマルのお客さんには、全国各地の生産者から「困ってない?食べ物送るよ!」「食べ物以外も送るよ!」という連絡が殺到してるらしい。あるお客さんは、「スーパーの食品棚は空だけど、私たち家族は怖くありません!」と言ってくれました。ええ話や。やっていて良かったと思います。

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高橋社長
たかはし・ひろゆき/1974年、岩手県花巻市生まれ。青山学院大学卒業。岩手県議会議員を2期務め、2011年9月に巨大堤防建設へ異を唱えて岩手県知事選挙に出馬するも落選し、政界引退。13年にNPO法人を立ち上げ、世界初の食べ物付き情報誌「東北食べる通信」を創刊。16年にポケットマルシェを始動。現在、同社代表取締役CEO、一般社団法人日本食べる通信リーグ代表理事 Photo by H.S.

 一番力を入れてるのは、マルシェで生産者と消費者が対面で会話するように、ネット上でコミュニケーションを取れるようにすることです。今までの大規模流通には壁があって、消費者は生産者の情報を取れなかった。それを変えるため、とにかく生産者と消費者が直接つながれるように工夫しています。

 ポケマルは、生産者が自分のプロフィールや商品の特徴を工夫して表現する場なのです。あくまで僕らは場をつくるだけで、最後は生産者次第というのが原則です。だから僕らが事細かに、こう書いてくださいと言ったり、プロのカメラマンに商品写真を撮ってもらったりはしません。表現が上手な人ほど売れる場にしたい。

 男女の出会いの場みたいなものです。男の人だって女の人に選んでもらうため、自分の長所をアピールしますよね。生産者も一緒です。でも、これまで生産者は作って、出荷して終わりだった。これからは、作ったものの価値を自分なりに表現する力が重要になる。その力を磨く場がポケマルなのです。

――生産のプロセスを知ることで、なぜ価値が上がるのでしょうか。

 One to Oneでダイレクトにつながる売り買いの面白さがあるからです。

 ザ・リッツ・カールトンホテルの日本のトップが「最高のホスピタリティはマニュアル化できない」と言っていました。目の前にいるお客さんが困ってるとき、One to Oneで全人格を懸けて、どうお客さんを笑顔にするかを考える。これに勝るホスピタリティはないという意味です。

 ポケマルで、お客さんが漁師に、「お父さんが還暦の祝いで、お魚好きだから贈りたい」と言うと、漁師もお父さんを喜ばせたくなって、発泡スチロールに「還暦おめでとう」とフェルトペンで書く。これをもらった側は、いかに心を砕いて手間を掛けたかが分かって感動する。これはマニュアル対応じゃできない。こういうサービスがお客さんの心を揺さぶり、価値になるのです。

 もう一つは、生産者から届けられるので食材の鮮度がいい。それに、生産者は梱包の仕方を工夫しています。新鮮なものでも梱包の仕方が悪ければ劣化します。それを防ぐ工夫が、箱を開ければ分かる。例えば、野菜セットでも一つ一つ新聞紙でくるむ農家がいる。手数が一目瞭然なわけです。

 逆に、全てのお客さんに送るようなテンプレート的な文章を書いて、名字だけ変えて出したら、それはバレる。それでは人の心は揺さぶれない。

 まず「ギブ(贈与)」することだと思うんです。するともらった側は値段以上のものを受け取ったような気がする。そうなると「消費者的人格」ではなくて、「受贈者的人格(もらった分を何かでお返しできないかと考える人格)」が強くなります。そして、その生産者から購入を続けたり、会社の同僚にその生産者を勧めたりする。そういったことが大事だと思っています。