必死に頑張ってきた人にこそ響く本

──岡崎さんの場合も、それまで「一生懸命生きて」きたからこそこの本の言葉が響いたんでしょうか。

岡崎:うん、それはあるかもしれないです。私、バブル崩壊後の就職氷河期第一世代なんです。大学卒業後すぐに正社員にはなれなくて、アルバイトをしつつ、派遣社員のような感じで出版社の仕事をしていました。

 2001年に韓国へ留学したあとは、東京で韓国人が経営する小さな出版社に入りました。でも、いろいろありましたよ。社長が給料をくれないまま夜逃げしたりとか。

 その後は、韓国人向けのフリーペーパーを作る会社の中で良さそうなところに電話してみたんですが、次に入った会社でも、たまに給料が出ないと、社長の奥さんがパチンコでお金を増やして、みんなに配っていたことがありました(笑)。懐かしいです。

モヤモヤ働く私の霧を晴らしてくれた一冊の韓国エッセイ

──そういう環境でしばらく働かれていたんですか。

岡崎:3年くらいですね。私の場合は、限界だと思ったらすぐに転職するタイプではあったんですけど、いつも、ものすごく頑張っちゃっていましたね。自分が最後に会社の鍵を閉めるような日が続くことも多くて。

 その仕事だけだと一人暮らしで生計を立てられないので、土日にコールセンターのアルバイトをしながらやってました。ほぼ休まずに、ずっと働いていて、やがてふと、どっと疲れて折れる……。その繰り返し。

 バブル世代の背中も見ているので「一生懸命やってるのに、どうして私の暮らしはイケイケにならないんだ?」と思ってしまうこともよくあった。全然、給料が上がらないとか、ボーナスなんて無縁とか……。希望が持てないというか。この本の著者のハ・ワンさんも同世代で、だからこそ刺さる部分はあったのかもしれません。

──この本は、ある種、これまで「頑張っても報われない」という思いをしつつも、がむしゃらに頑張ってきた真面目な人にこそ響く本なのかなと思いました。「最初から頑張らない人生でいいよ」という本ではないのかな、と私は解釈したのですが、岡崎さんはどう思われますか?

岡崎:本当にそのとおりですよ。一瞬でも、何かを一生懸命やってきた人だからこそ、「あ!」と強く共感できる本なんだと思います。

 頑張ることは、もちろん悪いことじゃないですし、この本も、それを否定しているわけじゃありません。だけど、やっぱりどうにもならないことはあるわけで、そのときには「諦めてもいいんじゃない?」「自分を死ぬほど追い詰めなくてもいいんじゃない?」と言ってくれている本なんですよ。だから、必死に頑張ってきた人にこそ、共感してもらえる本だと思います。