満員電車に乗れないくらい、追い込まれていた頃の自分へ

──私は、この本を読んでみて、同世代のアラサーたちにすごく読んでもらいたいなと思ったんです。私もそうなんですが、30歳前後って一番将来に悩んだり、それこそ「一生懸命生きないと」って思ってしまいがちだと思うから。パッと浮かんだのは仕事に悩んでいる親友の顔で、「次に会ったときに絶対プレゼントしよう!」って決めました。岡崎さんは、この本をおすすめしたい「誰か」の顔、浮かびますか?

岡崎:うーん……。私の場合は、やはり昨年の今頃の自分ですね。

──ちょうど岡崎さんがこの本に出合った後くらいですね。振り返ってみて、やはりそのころの自分に必要だったということでしょうか?

岡崎:はい、一年前は本当に苦しかったので。「とにかく仕事でなんとか自分を保たなきゃいけない」というプレッシャーが強すぎて、ほかのことが何も見えなかったんです。「ちゃんとしなきゃ!」って常に思っていました。ものすごく苦しかったんだけど、でも、そこから外れるという選択肢を持てなかった、なかなか踏み切れなかったあの頃の自分に、渡したいですね。

──そこまで大変だったんですね。

岡崎:本当にね、満員電車に乗れなくなってしまうくらい、精神的につらい時期があったんです。その会社ではスタッフが少ないこともあり、皆さん自分のことで手一杯で。

 一人でこなすポジションだったので相談する人もいないし、苦しみを共有できる人もいない。でも、いつもその苦しみに蓋をして、騙し騙しやっていて。そんなときにこの本を読んで、「もう少し自分に正直になってもいいかも」って思ったんですよ。

 私、まさに『あやうく一生懸命生きるところだった』んですよ。一年前までは。「誰のためにやっているんだろう」って思ってた。もちろん私がやりたいっていうのもあったんですけど、ただ、正社員になってからは特に「会社のために」っていう気持ちが強くあった。この仕事に関わる人たちの生活もある。私が編集する本を楽しみに待ってくれているお客様もいる。

 変な話なんですけど、「私が支えなくちゃ」みたいにそのときは思ってしまっていたんです。そこでふと、「誰のために、何のためにやっているんだろう」と思って……。今思うと、結局、自分のためじゃなかったのかもしれません。自分で自分の首を絞めているような感覚でしたね。

モヤモヤ働く私の霧を晴らしてくれた一冊の韓国エッセイ

──そんな岡崎さんを救ったこの本を、岡崎さん自身が翻訳されているって、すごいことですよね?

岡崎:そうですね、翻訳を担当できたのは本当に奇跡なんですよ!「この本がすごく好きだ」とか「この本を読んで、会社を辞めようと思った」とか、そういう話は、翻訳する前からいろんな人にしていました。

 それで、たまたま版権を扱っている方のところに、ダイヤモンド社さんからお話があって、「これ岡崎さんがすごくいいって言ってたあの本じゃない?」と繋がって、私が翻訳させてもらえることになったんです。

――じゃあ、決まったときはやっぱり嬉しかったですか?

岡崎:いやー、びっくりしましたよ! たぶん30センチぐらい跳びました(笑)。本当に私はタイミングが良くて、こういう素敵な本を翻訳するチャンスに巡り合えたのもありますし、今は、前から「やってみたい」と思っていたことをやれているから、この本に出合えて本当によかったです。

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 これは裏話になるけれど、じつは本書の出版は、編集を担当したH氏の悲願でもあった。「やりたいことをやって生きていこう!」と、バリバリ頑張る風潮が勢いを増していくなかで「生きづらさ」を感じている人たちを救う本をつくりたいと思っていたところ、本著を見つけ、手を挙げたのだという。取材時、同席していたH氏のそんな裏話を聞いていた岡崎さんは、ふとこう呟いた。

「本当によかったですね。なんか、本当によかった……。もっといろいろな人に、この本を読んでほしいですね」

 韓国から広がり、そして、日本へ。岡崎さんが翻訳した言葉が、生きづらさを感じている多くの人たちの心に光を灯すのは、まだまだこれからだ──。

【大好評連載】
第1回 モヤモヤ働く私の霧を晴らしてくれた一冊の韓国エッセイ
第2回 なぜこの本は、劣等感にさいなまれる韓国人の心を救えたのか?
第3回 意識低い系エッセイが教えてくれた「自分らしい働き方」
第4回 なぜ、韓国人は同じ店を隣に出すのか?

モヤモヤ働く私の霧を晴らしてくれた一冊の韓国エッセイ