――半分ぐらいでしょうか。
ありえません。国政選挙の投票率ですら50%を切るんですよ。行動経済学の常識でいうと、オプトイン(明示的な同意の取得が必要なケースを意味する)での同意率は2割程度です。ナッジ(望ましい方向に人々を誘導する行動経済学の手法)で伸ばせても3割から4割が限界です。接触を8割削減しなければならないような感染症対策では、お願いベースのやり方は限界があるのです。
いち早く接触確認アプリを導入したシンガポールは政府の力が強い権威主義体制の国として知られていますが、それでもインストール率は2割にとどまります。強制に近いレベルでの「お願い」をしたとして、3割から5割のインストールが限界でしょう。64.7%の5割ですから、どれだけ甘く見積もっても全人口におけるインストール率は30%台です。
またアプリが機能するには接触する双方がアプリをインストールしている必要があります。片方だけがインストールしていても、何も記録されないわけです。そうすると、30%×30%で9%。実際の接触回数の9%しか補足できないわけです。
他にも課題はあります。このアプリでは感染が判明した場合、保健所から通知された感染者が自分でスマートフォンに入力する必要があります。コロナにかかってショックを受けているでしょうから、入力どころではないケースも出てきます。また、持っている端末が古くてアプリをインストールすらできない人もいるでしょう。
現在では保健所が聞き取りによる接触確認を行っていますが、この補足率は50%前後で推移しています。人海戦術のクラスター追跡に対して、接触確認アプリがたいした助けにならないことはわかると思います。
なお、プライバシー保護への配慮は徹底されています。端末が記録する情報も匿名化され、個人が特定できない形式です。個人情報とは個人を特定できる情報を意味します。ですから、この接触確認アプリでは個人情報は使われていないわけです。
だとすれば、日本の個人情報保護法に従えば、個人の同意を取る必要はなかったはずで、スマホOS(基本ソフト)のアップデートに伴って、APIとアプリも込み込みで全ユーザーにプレインストールさせるという仕組みも考えられたはずです。そうなれば、もっと実効的なアプリになったでしょう。