ICTとプライバシーの均衡が
21世紀の勝者を決める
――接触確認アプリには期待できないことはわかりました。では、コロナ対策へのデジタル技術活用は断念するしかないのでしょうか?
日本国民の自粛によって、国内の感染はほぼほぼ抑えられました。今後の最重要課題は海外からの流入ウイルス対策です。日本人の帰国者もいますし、経済再開に伴い外国人ビジネス客の入国も増えるでしょう。検疫のPCR検査で大半の感染者は発見できるでしょうが、それでも渡航直前に感染していた場合などはチェックをすり抜けてしまいます。
現在のような、日本入国から2週間は自主隔離を“お願い”するようなやり方では感染拡大は防げないでしょう。この問題を解決できるような方法は考えられます。
例えば、入国時に位置情報追跡をオンに設定してもらうのはどうでしょうか。入国者は施設での2週間の隔離か、位置情報の取得を選べます。位置情報をオンにしさえすれば、隔離なく自由に行動できるとなれば、ほとんどの人が位置情報の提供を選ぶでしょう。
海外からの入国者、帰国者の移動履歴がわかっていれば、感染が見つかったとき、どの人物がウイルスを持ち運んだのかを推定できます。感染経路の追跡ができれば、二次感染、三次感染と広がる前に止めることができます。クラスター追跡の助けになるでしょう。
――移動履歴を取得すれば、プライバシー侵害との批判を避けられないのでは?
今問われているのは、いわば未来の社会体制のあり方です。中国のようにプライバシーや人権に配慮しないで最新の情報通信技術がフルスペックで使い放題の管理社会と、プライバシーへの配慮からそうした技術が十分に使えない自由民主社会、こうした対比が続けば前者が技術の効率性で勝利する可能性もあります。
20世紀のイデオロギーの争いでは、資本主義の市場経済が社会主義の計画経済に勝利しました。ハイエク(オーストリアの経済学者、1992年死去)は計画経済について、情報が不完全で市場の均衡価格が計算しきれないため、根本的な問題があったと指摘しました。しかし21世紀の争いでは異なる結果が出かねません。人権やプライバシーに配慮せずに、情報通信技術を融通無碍に使える社会のほうが経済的効率性で勝利する、という答えも考えられるわけです。
もちろん、日本国民の多くが中国のようになりたいとは思っていないはずです。私もそうです。だとすれば、自由民主社会においても、公益のために情報通信技術をどこまで活用するべきか、プライバシー保護に踏み込む分野であっても、粘り強く思考停止せずに考え抜くことが求められます。