肉と魚の経済学#1
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コロナ禍でも影響を受けにくいとされてきた食品分野。ところが、業界全体の存続を揺るがしかねない事態が「和牛」の世界で起こっている。外食などの高級品市場がコロナ禍で壊滅的打撃を受ける中、これまでここをメイン市場として構成されてきた国内の和牛サプライチェーンが崩壊寸前に陥っているのだ。特集『肉と魚の経済学』(全13回)の#1では、コロナ禍に打ちのめされた和牛業界の危機に迫る。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

日本中の冷凍倉庫に起こった異変
積み上がる高級霜降り和牛のわけ

 羽田空港に程近い、東京・平和島。海岸沿いに冷凍倉庫が軒を連ねる国内有数の倉庫ターミナルだ。その巨大な倉庫群に異変が起きている。コロナ禍の影響が日本でも広がり始めた今年春ごろからものすごい勢いで運ばれ続け、いまや「もうパンパンで全く余裕がない」(業界関係者)くらいに詰め込まれているものがあるのだ。それが、高級霜降り和牛である。

 平和島だけではない。全国でも全く同じ現象が起こっている。現在、主要都市の冷蔵・冷凍倉庫の実に40%を畜産物が占め、中でも高級牛肉の在庫が急増しているのだ。

 下図をご覧いただきたい。東京、大阪、名古屋などの六つの都市圏にある冷蔵・冷凍倉庫の在庫のうち、畜産物の推移を表したものだ。

 在庫は緊急事態宣言中の4~5月中に一気に積み上がり、その後は高止まりを続けている。それに伴って需給のバランスが大きく崩れ、A5ランクの高級和牛の価格が、4月には前年同月比27%減と史上最低レベルにまで下落。その後、多少持ち直したものの、現在もまだ前年の価格水準を下回り続けている状況だ。

 コロナ禍で「家食」市場が伸び、食品業界は総じて好調な状態が続いている。実は、牛肉も全体で見ればその恩恵を受けている。BSE(牛海綿状脳症)の影響で一時期80万トンにまで落ち込んだ国内の牛肉消費はその後回復し、2019年には2000年以来最高となる95万トンにまで伸びた。つまり日本人はこの20年間で今、最も牛肉を食べているというわけだ。

 この傾向はコロナ禍に見舞われた20年においても変わっていない。現に輸入牛肉販売は目下絶好調なのだ。20年1~6月期の食肉輸入量は統計がある1988年以降で最多を記録し、特に冷凍牛肉は前年同期比7%もの増加となっている。

 にもかかわらず、和牛は全くこうした恩恵にあずかることができていないのだ。いったいなぜなのか。