南北統一にメリットはあるのか

 米国の歴史家であるコネチカット大学のアレクシス・ダテン教授によれば、朝鮮半島の歴史を振り返ると、彼らはこれまで強いものに高い忠誠を示してきました。

 米国と韓国は2016年に地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の配備で合意しましたが、これを受けて中国は韓国企業の報復措置に乗り出しました。その結果、朴槿恵前大統領の時から配備が遅れ、今も全基の設置はできていません。

 韓国は、米国と中国という2つの大国の狭間に立ち、どちらが強いのかを見極めようとしているようです。こうした姿勢は、北朝鮮も韓国も変わらないように感じます。

 トランプ政権は韓国に対して在韓米軍駐留経費の増額を求める一方で、米軍基地はソウル市から郊外へと移転されました。これによって韓国はソウル市内の一等地を取り戻したことになります。米軍のメリットは北朝鮮がソウルにミサイル攻撃をしてきた際の最初のターゲットにならずに済むということでしょう。

 普通は在韓米軍駐留経費をこれまでより多く支払うなら、よりしっかりと首都であるソウルを中心に米軍に守らせたいと考えるはずです。それなのに韓国は米軍に今までよりも多額の金額を支払う一方で、郊外に移動させて防衛の負荷を軽減したのです。どうにも奇妙な取引ですが、これが米韓関係の実態です。つまり韓国は北朝鮮との連携よりも中国や米国との駆け引きを大切に考えているのです。

 北朝鮮も恐らく韓国との連携を深めるより、2つの大国である米国と中国のどちらと組むのがメリットがあるのかを見極めようとしているようです。

 仮にこの先、北朝鮮の金委員長が早逝して金日成以来の「革命の血統」を維持できなくなったとしても、北朝鮮が中国と合意して南北朝鮮がそれぞれ別々の国として存続するなら、米国の支援を受ける韓国と中国のサポートを受ける北朝鮮の間で平和を維持することは可能でしょう。

 一方、もし米国と中国が同意して北朝鮮と韓国が統一することになれば、朝鮮半島の首都は平壌に置かれ、北朝鮮は核武装を解除して日本のような戦力不保持となるのかもしれません。朝鮮戦争が本当の意味で終結すれば、朝鮮半島に武力は不要になるからです。

 両国の統一を、当事者である北朝鮮と韓国の人々は歓迎しないかもしれません。

 しかし平壌という都市が開発されると米国も中国も莫大な利益を得ることになります。しかも統一朝鮮が戦力不保持となれば、朝鮮半島は米国と中国の均衡地帯となるでしょう。中国新幹線で中朝国境の丹東から釜山までは約10時間です。

 日本は、こうした動きを傍観する以外にありません。しかし南北が統一されて朝鮮半島の武装が解除されるなら、もはや横田基地の目的もかなりの部分が失われることになります。基地の跡地を平和利用するチャンスを手にすることができるはずです。

 朝鮮半島は、南北分裂が続くにせよ統一されるにせよ、米国と中国の緩衝地帯として生きていくことになるでしょう。