12月12日に配信イベントとして開催された『嫌われる勇気オンラインフェス』(嫌フェス)。イベント内では「嫌フェスSPトーク」と題して、株式会社ユーグレナ社長 出雲充氏と『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』共著者、岸見一郎氏の対談が行われました。
両書をバイブルとし、2014年以降さまざまな場所で推薦書として挙げてこられた出雲さん。今回は「哲人」岸見先生との対談ということで、快く引き受けてくださいました。出雲さんはいったいアドラー心理学のどこに惹かれ、その教えによってどのように人生を動かしてきたのでしょうか。そしていつ終わるともわからないこのコロナ禍にいるリーダーとして、アドラーの思想をどのように生かしているのでしょうか。
息つく間もなく盛り上がった対談から、本記事ではダイジェスト版をお送りします。(構成/田中裕子、対談完全版動画へのリンクは最終ページ下部にあります)
経営者としての自分を支えた「魂のバイブル」
出雲充(以下、出雲) 岸見先生とは少し前に、はじめてオンラインで対談させていただきました。そのときも本当にすばらしい刺激をいただいたので、今日もとても楽しみにしていたんです。よろしくお願いします!
岸見一郎(以下、岸見) ええ、よろしくお願いします。
出雲 そもそも、私が『嫌われる勇気』をいちばんはじめに読んだのは2014年です。書評を書いてほしいと渡されたのがその出合いですが、もう、読んだときのインパクトがすごくて。それ以降、「魂のバイブル」となっています。
というのも、私は2005年に株式会社ユーグレナを起業し、2014年12月には東京大学発のベンチャー企業ではじめて東証1部に上場しました。つまりビジネス自体はうまくいっていたわけですが、一方で株主との対応、あるいは会社の仲間も増えたことで人間関係も複雑になり、大きな会社を運営する大変さを痛感していた時期だったんです。
誰にも相談できないし、教えてもらえない。そんな苦しみのさなかでこの本に出合い、こう……霧が晴れたようでした。
株式会社ユーグレナ 代表取締役社長
駒場東邦中・高等学校、東京大学農学部卒業後、2002年東京三菱銀行入行。2005年株式会社ユーグレナを創業、代表取締役社長就任。 同年12月に、世界でも初となる微細藻類ミドリムシ(学名:ユーグレナ)の食用屋外大量培養に成功。世界経済フォーラム(ダボス会議)ヤンググローバルリーダー、第一回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」 受賞。経団連審議員会副議長。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』(小学館新書)がある。
岸見 なるほど。
出雲 いちばん影響を受けたのは、「より大きな共同体のためになることをすべきだ」というメッセージですね。もちろんユーグレナは株式会社ですから、儲けを出さなければなりません。でも、もともとは「人と地球を健康にしたい」と思ってスタートさせた会社です。その夢を叶えるために作った会社なんです。
『嫌われる勇気』を読み、アドラーの思想に触れ、その「人と地球」という大きな共同体をあらためて意識したときに、自分のすべきことがはっきりとした。それから株主に対しても、「長いスパンで考えて自分の時間と会社のリソースを使わせてほしい」とていねいに説明するようになりました。
それに、この本を読むまでは、100人いたら100人全員にユーグレナのよさを「こんなにすばらしいんです」としつこく説明していたんです(笑)。要は、ユーグレナを気に入るかどうかは「他者の課題」なのに、自分の考えを押し付けていた。それで自分自身が苦しくなっていました。
でも、「他者の課題には土足で踏み込まない」とする「課題の分離」を学んだことで、その行いが誤りだったことがわかった。そうか、ユーグレナを必要とする人に貢献するために全力を投じればいいんだと気づけたんです。
全員に好かれる必要はないんだなと「嫌われる勇気」を持ったとき、靄(もや)が晴れました。
岸見 ありがとうございます。私たちが本書を出した根本的な動機は、「この世界を変えたい」でした。とはいえ世界はわかりやすく目の前にあるわけではないし、すぐに変えられるものではない。変えられるのは、あくまで「個人」です。
ですから、本を読んだ方が「こんなふうに考えたらいいのか」「こういうふうに行動してみよう」と受け取り、考え方や人との関わりを変えていくことで、いずれ世界も変わっていけば……と願っていたのです。
それが今の出雲さんの話を聞き、僕が予想していたよりもはるかに大きなインパクトをこの本がもたらしたことがわかりました。本当に嬉しいです。