総予測#66

あのウォーレン・バフェット氏が絶大な信頼を寄せ、米ウォール街のご意見番として知られている著名投資家のハワード・マークス氏。特集『総予測2021』(全79回)の#66では、同氏にこのところの市場環境や個人投資家が行うべき投資法などについて、考えを聞いた。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)

「週刊ダイヤモンド」2020年12月26日・2021年1月2日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は原則、雑誌掲載時のもの。

不合理でない今は
バブルにあらず

――新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、米国をはじめ世界的な株高が進んでいます。この状況は「バブル」なのか否か、考えを聞かせてください。

 多くの投資家が、コロナの感染拡大と市場の動きとの相違に戸惑っています。相互に作用する二つの問題がある中で、市場がどのように堅調な動きを保ってきたのかひもといてみましょう。

 一つは、米国のFRB(連邦準備制度理事会)と財務当局が、大規模な金融政策や財政政策で短期的な問題解決を図ったことです。

 このようなFRBと財務当局の行動もあって、投資家がコロナの悪影響の谷を越えた先々の世界に目を向け、短期的な経済の弱さを無視するのもいとわない状況となりました。市場は現状ではなく、潜在的に1年後や2年後の世界を見据えるようになったのです。

 第二に、低金利も非常に重要な要素です。金利引き下げにより、(理論株価の算定上)将来キャッシュフローの割引現在価値が増すことになります。そして極めて低金利の環境では、例えばリターンがゼロのキャッシュに比べ、5~6%程度の利回りが見込めるハイイールド債(高利回り債)が相対的に魅力的な投資先に映ります。ハイイールド債は投資先の一例ですが、金利引き下げは人々を投資に駆り立てる要因となるわけです。

Howard MarksHoward Marks/オークツリー・キャピタル・マネジメント共同会長兼共同創業者。1995年、ハイイールド債や不良債権への投資を得意とする投資会社オークツリー・キャピタル・マネジメント(直近の運用資産約1400億ドル)設立。主著に『投資で一番大切な20の教え』『市場サイクルを極める』など。

 また、2020年3月のような危機的な相場を経験すると、人々はリスクに直面することを嫌がり、「二度と危険を冒したくない」と言います。とはいえ、金利がゼロに張り付いた世界の中でまともなリターンを得ようとすれば、ある程度のリスクを取ることは不可避です。こうした背景も積極的な姿勢の投資家を市場に引き寄せ、市場は厚みを増すことになりました。

 そして質問への答えを言えば、バブルは不合理な存在なので、以上のような説明が可能な現状は、バブルだとは考えていません。いずれも投資家たちの合理的な反応と映るわけです。一連の動きは、株式のような一つの資産に限定されたものではなく、あらゆる投資対象について言えるとみています。

――株式を主な投資対象とする個人投資家に対し、現在の局面でどのような投資の方法を考えるべきなのかアドバイスはありますか。