岡田:その決定的な違いが「想定外を受容できるかどうか」だと思うんですよ。

 面白いことが起きない人って、すべてを思い通りにしようとする。自分の思い通りにいかないことを全部排除しようとするんです。そういう姿勢だと、なかなか旅は面白くならない。

 言葉も文化も何もわからない国で、「自分は何もできない」という無力感を知る。ファーストインプレッションではストレスであっても、いったんそれを受け入れて、面白さに転換していく。「想定外を受容する」のが旅を楽しむコツなのかな、と思っています。

旅を面白くするために
自分に課した2つのルール

──旅を面白くするために、岡田さんが工夫されていることはありますか?

岡田:「準備しすぎない」ことですね。これは実際の旅だけじゃなくて何事においても「想定外のことが起きたときに、そっちに流されていけるゆとりを持っておく」ようにしているんです。計画もガチガチに立てすぎない。時間的にも物理的にも、偶発性にうまく乗っかれる余裕を持っておくようにしています。

──具体的には、どう「準備しない」んですか?

岡田:まず、持ち物はリュック1個です。

──うわ、文字通りのバックパッカーですね。学生の頃ではなくて、今でも、ですか?

岡田:はい。あと、「パッキングは当日にやる」と決めています。荷物を準備するのは飛行機に乗る当日。

──え? 2週間とか、長めの旅でも?

岡田:1ヶ月でもそうです。「リュック1個だけ」と制限すれば、それに入るだけの範囲でおさめられるので。大きなリュックは重くなって大変ですし、準備もめんどくさいので。

──当日いきなり準備して「あー! あれがなかった!」って焦るとかなりませんか?

岡田:なります(笑)。でも、パスポートさえあれば、現地調達すればいいので。案外、大丈夫です。

70か国以上旅した僕の
『地球の歩き方』読みつぶし法

──想定外を受け容れて旅を面白くするに当たって、ほかに心がけていることはありますか?

岡田:「ガイドブックに頼りすぎない」というのもポイントかもしれません。一応、僕も空港でガイドを買ってバーっと眺めておくくらいのことはするんですけど、念入りに調べたりはしません。Googleマップさえあれば、ガイドブックを使わなくてもそこまで迷わないですし。

 ガイドブックは、情報を得るというよりも、現地の歴史的背景を学んだり、ガイドからにじみ出る旅情を楽しんで想像したり、読み物として楽しんでいます。

──なるほど。お気に入りのガイドブックってありますか

岡田:僕はとくに『地球の歩き方』が好きで。なぜかというと、たまに「ガイドの役割」を逸脱してめちゃくちゃエモいことが書いてあったりするんです。たとえば、僕をはじめてのバックパック旅行にいざなったのは、『地球の歩き方 モロッコ 2006~2007』の扉絵ページに書かれていた一節でした。

「とにかくモロッコという国は、あらゆる側面において強烈な個性を放っている。初めて訪れる人にとって、旅は驚きの連続になるだろう。」

 あくまでも客観性が重視されるはずの「ガイド本」の中に、思わずにじみ出てしまった筆者の主観的な旅の記憶。

──たしかに。個人の旅行記みたい!

岡田:そういうものに旅情がかき立てられるんです。ガイドブックだけ読んで空想をふくらませて楽しんでいることもあるくらいです。

すべての旅は『0メートルの旅』

──なかなか旅に出かけられない時期が続いていますよね。特に旅が好きな人たちはフラストレーションが溜まっているのではと思うのですが。

岡田:こういう状況になった当初は、ほんとにキツかったです。僕はずっとリモートワークだし、ずっと定まった場所にいると、心理的にも物理的にもそれが当たり前になって、どんどん色褪せていくような気もして。

──岡田さんは「旅に行きたい」という欲求を、どうやって発散させていますか?

岡田:今は、「どこにいても旅はできる」と思っています。 今回の本も、冒険や辺境ばかりが旅じゃなくて、「たとえ遠くに行かなくても、旅はできる」というコンセプトでつくりました。もちろん国境が開いたら海外にはめちゃくちゃ行きたいですけど、旅はもっと自由で、もっと身近に見つけられるものです。

──あの、もうちょっと掘り下げて、ズバリプロフェッショナル的な質問をしてもいいですか? 

 「岡田さんにとって、旅とはなんですか?」

岡田:(笑)。

「旅はつまらない」と思う人に決定的に欠けていること苦笑