「真実」は無数にあるが、
「自分の直感」はたった1つ
──そういう「自分」を確立するのにいいやり方はありますか?
佐宗:具体的な方法としては、「ジャーナリング」をおすすめしています。「いま、どんな感情になのか」「どんなことに違和感を抱いたのか」などを自分自身に問いかけて、ノートに書いていくだけです。
ジャーナリングのいいところは、情報ソースがすべて「自分」だということですね。しかも、それを「書き出す」ことが重要です。これを続けていると、「あ、自分はこういうことにいつも腹を立てているな」とか「これが好きなんだな」ということが見えてくる。1ヵ月くらい継続すると、まわりにこびりついた「他人」が少しずつ削り取られて、中に隠れていた「自分」が見えてくるような感覚になります。
──なるほど。では、「自分モード」になるのがむずかしくなっているもう1つの理由は何でしょうか?
佐宗:もう1つは、「主体的に生きること」や「自分なりの答え」がより重要な時代になってきたからです。
SNSが発展したことで、今の世の中では、いろいろな人がいろいろなことを自由に発信しています。でも、その情報のうちどれがいちばん正しいのか、誰の情報をベースにしていけばいいのかは、もはやよくわからなくなっています。以前であれば、「これさえやっておけば間違いない」と言われていた領域でも、そういう「正解」がどんどん消滅していっているような状況があります。
そういう時代環境にあっては、周りで起こっている出来事に対して、「“自分は”こう解釈しよう」「“自分は”こう意味づけよう」という具合に主体的に向き合っていくほうがいい。「他人モード」で見つけた「正解」を大事に握りしめていても、そもそも「その正解が成り立っていた足場」がどんどん崩壊していきかねないからです。とにかく「truth」が無数にある時代なので、最低でも自分なりの「TRUTH」を持つこと。それがあれば、地に足をつけながら生きていけます。
哲学者マルクス・ガブリエルが提唱する新実存主義なども、こうした流れの延長線上に位置づけられるのかなと思っています。それぞれの人がその「場」において感じる認識が真実である、という考え方に立つなら、逆に「今、自分がこう感じている」ということ自体が前面に出てきますから。