今、私たちは「自分がどう感じるか」よりも「どうすれば他人が満足するか」ばかりにとらわれてしまっています。そんな「他人モード」全盛の時代に「自分モード」を取り戻すには、何が必要なのでしょうか?
そのヒントになりそうなのが、ベストセラー『直感と理論をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』の冒頭に出てくる「自分モード」と「他人モード」という表現です。今回は同書の著者である佐宗邦威氏に「自分モード」を取り戻す方法について、じっくり話を聞いてみました。(取材・構成/イイダテツヤ)

真面目に情報収集している人ほど、
現実にメンタルを削られていく

──本の冒頭に「他人モードにハイジャックされた脳」という印象的な表現がありますね。脳が「他人モード」にハイジャックされる要因は、どのあたりにあると佐宗さんは感じていますか?

佐宗:いちばんの要因は「情報環境」で、とくにスマートフォンが典型的ですね。スマホはユーザーが「受動的」になりやすいようにつくられていますから、これがメインの情報デバイスになった時点で、どうしても「受け身=他人モード」になる機会が増えてしまいます。

 たとえばスマホの画面上には、仕事のメール、世の中のニュース、SNS上の誰かの投稿など、さまざまな外部の情報がどんどん押し寄せてきますよね。われわれはそれを、かなりの頻度で目にするような「情報環境」にある。こうなってくると、「純粋に自分の中で感じたこと」に意識を向ける機会が、気づかないうちに失われていきます。

 だからこそ、あえて「外からの情報」を意識的に遮断して、「内からの声」に耳を傾けるような時間をつくらないと、どんどん自分自身が「他人モード」に汚染されていきます。しかも、そういう傾向はどんどん加速していると感じますね。

──たしかに、今の情報環境では「自分モード」になるのはむずかしくなっていますね。ところで、そもそも「自分モード」がより必要だと佐宗さんが考えるのは、どういった理由からなんでしょうか?

佐宗:それには2つあります。1つは「自分のメンタル・ウェルビーイングを保つ」という観点です。要するに、心を健全に保つためには、「自分モード」をある程度は確保しておかないといけない。

 今、世の中を見ても「あまりいいニュースがない」「状況が目まぐるしく変わる」という現実がありますよね。それが当たり前の環境において「他人モード」ばかりで生きようとすると、当然のことながら、自分のメンタルもぐちゃぐちゃにかき乱されてしまいます。

 でも、実際の身の回りでは、そんなに悪いことばかりではないはずです。ちょっとした文章を読んで感動したり、あいかわらず同じ音楽が好きだったりする自分がいる。ただ、そういう「自分」に目が向かなくなっているんですよね。

 そういうときこそ、「外からの影響を受けない自分自身」に意識的にフォーカスすることが大切だと思っています。それをするだけでも、人のメンタル・ウェルビーイングはかなり改善するのではないでしょうか。

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー 大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授
東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書にベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法──VISION DRIVEN』などがある。