結局、TSMCやサムスンも、スマホや5G関連用途などの最先端工場は自国や米国で製造する一方で、自動車や産業用機械用途のミドルエンド以下の半導体は、中国や他のアジア諸国で生産するなど、米中対立の状況を見ながら現実的な対応を模索することになりそうだ。

 日本にしても日米連携はいいが、米国のように国内に巨大市場がない状況では、日本の装置や素材メーカーが進出を求められて米国に吸い寄せられ、国内が空洞化することになりかねない。

 それだけでなく、米国の対中強硬策の下で米国の貿易管理の強化に合わせて日本の装置メーカーなどの対中輸出規制を求められる恐れもある。

 かつても、安全保障を前面に、米国に輸出抑制や米製品購入を迫られ半導体協定締結に応じることを余儀なくされた。それがその後の半導体産業衰退の大きな要因になった苦い経験もある。米国の対中強硬路線にただ追随するわけにはいかない。

 政府は当面は「3強」誘致路線ながら、次世代やさらにその先の世代の半導体覇権競争を見据えた基礎研究開発などへの補助事業も進めてはいる。

 だが「投資額が勝負」といわれるなかで、政府の半導体関連支援額は今のところ最も大規模なものでも、「ポスト5G基金」(ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業)の2000億円。ほかにも高効率高速のAIチップ開発やサプライチェーン対策の国内投資促進などの補助制度があるが、数十億円規模だ。

 EUのデジタル移行投資(1345億ユーロ=17.5兆円)の規模には遠く及ばす、米国(520億ドル=5.7兆円)、中国(5兆円、地方政府の半導体基金を含めると計10兆円)との差も歴然だ。

「半導体王国をもう一度」となるのかどうか、長く厳しい道のりだ。

(ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)