世界景気の先行指標とされる銅相場が史上最高値を更新した。主要国の大型の財政出動や大幅な金融緩和によるインフレ期待が背景にある。ただ、上昇ペースが速すぎたこともあり、高値警戒感も出てきている。今後、上昇スピードは鈍化するだろう。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)
10年ぶりの史上最高値更新
米国の大型財政出動などが買い材料
5月に銅相場が10年ぶりに史上最高値を更新した。昨年からEV(電気自動車)需要や中国需要の盛り上がりなどを囃して、上昇傾向で推移してきたが、今年に入ってから一段高となった。
年初からの銅相場の動向を振り返ってみよう。1月は上昇後、頭打ちだった。上旬は、米国のバイデン次期政権の下での大型経済対策への期待から高値追いする場面があった。もっとも、ドル高や中国でのコロナ感染拡大への懸念、中国の春節の不需要期など弱材料が意識されて下旬には1トンあたり7705ドルまで売られた。
2月は大きく上昇した。バイデン大統領が掲げる1.9兆ドル規模の経済対策の実現に近づいたことや、18日の春節休暇明け後に中国需要が回復するとの見方が強まったことから上昇に勢いがついた。25日には9617ドルと2011年8月以来の高値を付けた。その後、米長期金利(10年物国債利回り)が1.6%まで急上昇して、金融・商品(コモディティー)市場全般に売り圧力が広がる場面があった。
3月はやや下落後、横ばい圏で推移した。月初は弱めの中国景気指標などが売り材料になり、4日には8570ドルまで下落した。その後は強弱材料の綱引きで、横ばい圏での推移となった。米国の経済政策への期待が高まる一方で、昨年来、銅市場をけん引していた中国の経済政策が経済成長よりも環境対策などを重視するのではないかと懸念されるようになった。
中国では5日に開幕した全国人民代表大会(全人代)で今年の成長率目標が6.0%以上という低水準に設定された。一方、米国では11日に1.9兆ドル規模の米国救済計画法が成立し、さらに大型インフラ投資計画を打ち出すと見込まれた。
その後、銅需給の引き締まりが強材料になったが、米アラスカ州アンカレッジで米中外交トップ会談が行われて非難の応酬となったことや、欧州で新型コロナ感染の第3波が懸念されたことが弱材料だった。スエズ運河での大型コンテナ船の座礁事故による物流コスト上昇懸念は一時的な影響にとどまった。