米国実質金利低下でドル安傾向、目立ち始めた人民元高Photo:PIXTA

FRB(米連邦準備制度理事会)は、量的緩和の縮小は慎重に進める方針を示唆している。雇用者数の伸び鈍化もあり、米国の10年国債利回り上昇は一服し、実質金利は低下した。ドル安観測が強まるなか、ドルが売られる相手として人民元が浮上している。中国が金融緩和を進めにくい状況下、しばらくは人民元高が続くだろう。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)

13年夏の失敗の轍を踏まないよう
量的緩和縮小に慎重なFRB

 2021年に入り、コロナ禍からの脱却への期待が高まり、それに伴い米国株式市場が大きく上昇してきたが、これを受け、FRB(連邦準備制度理事会)は長期金利の上昇を容認する姿勢を示し始めた。債券購入規模の縮小、つまりテーパリングに係るコメントも増え始めたため、その結果、米国10年債利回りは大幅に上昇した。

 景気回復期待がインフレ期待につながることを介してBEI(ブレークイーブン・インフレ率)が上昇したことが大きかったが、他方、大規模な金融緩和政策によってマイナス1%程度のレベルまで抑え込まれていた実質金利も上昇した。これらによって名目10年債利回りは一時1.8%付近まで上昇することとなった。

 ただ、13年にバーナンキFRB議長(当時)のテーパリングを示唆する議会証言から長期金利が急騰したことは「テーパー・タントラム(かんしゃく)」とまで言われ、新興国市場などに多大なる影響を及ぼした、

 今回、「同じ轍を踏まないように」と、FRBメンバーのテーパリング問題の取り扱いは非常に慎重である。テーパリングの議論が始まってから「かなりの期間」を置いて、また、ゆっくりと債券の買入を減額していくとの方向性が示された。

 その結果、市場参加者においてもテーパリングの長期金利への影響が限られるのではないかとの思惑が強まりつつある。