忙しい現役世代は高齢期の問題を知る機会が少ない
こういう話を知人にすると、「そんな方法があったのですか、知りませんでした」という言葉がよく返ってきます。この知人のように、40代、50代の現役世代の人は、仕事が忙しいうえ、一般にこれらの諸問題についての知識や理解が乏しいのが現状です。そして、自分の親に何かがあって、初めてその対処に着手する人がほとんどと言っても過言ではありません。
かくいう私もそうでした。83歳の母が、昨年(2010年)の春に脳梗塞で倒れて入院しました。便りのないのは元気な証拠というのは子供の場合で、老親からの便りが途絶える場合は、残念ながら元気でない証拠のことが多いのです。
それまで私は、仕事上、高齢者の認知症改善・予防の普及活動に関わっていながら、自分の親は幸い元気だったためか、親の介護のことは、どこか他人事のように思っていました。しかし、実際に自分の肉親が当事者になったことで、初めて私自身も当事者となり、老親に関わることが他人事ではなくなりました。
人生の成熟期の対処法を教えてくれる学校はない
子供から成人への成長期には、小学校から大学まで必要な基礎知識や学力を身につけるための教育の場が整備されています。ところが、成人から中高年への成熟期には、自分の生活防衛のための知識や、よりよい後半生を過ごすための対処法を身につけるための教育の場は、残念ながらほとんどありません。したがって、こうした知識や対処法は独力で学ぶ以外に方法がありません。
一方、こうしたことを学ぼうと思って書店に行くと、「相続」「介護」「老人ホーム」「成年後見制度」といった個別テーマによる専門書は数多く存在します。ところが、「高齢の親とその家族が遭遇しうる諸問題」といった視点で、これらの個別テーマの勘所を横串にした書物は、なかなか見つかりません。
現役世代が生活防衛のために、よりよい人生を送るために、どんなアクションが必要なのか、その理由は何かを包括的に整理した書物が意外に少ないことに私は気がつきました。もしかしたら、先に挙げた私の知人が知りたいと思っていることは、彼以外の多くの現役世代の人も知りたがっているのではないか――この疑問が、本書を執筆するきっかけとなりました。
トラブル予防の「対処法」を知って近い将来に備える
本書は、毎日忙しいなか、多くの悩みを抱えながら必死にがんばっている40代、50代の現役世代の皆さんに「高齢期の親に関わる諸問題」に起因するトラブルを未然に防ぎ、仮にトラブルが起きたとしてもそれによるダメージを最小限に食い止めるための「対処法」をお伝えすることを試みたものです。
ただし、本書は個別テーマの専門書ではありません。このため、他の専門書に詳しく書いてあることは敢えて省略しています。より専門的な内容を知りたい場合は、他の専門書をお読みいただくか、街の専門家のドアを叩いていただくことをお勧めします。本書が本格化しつつある超高齢社会において、本来、不要なトラブルを起こすことなく、親子の絆を深め、良好な親族関係を構築するための「新しい生活常識」として、現役世代の方のお役に立てるなら、筆者としてこれほどうれしいことはありません。