FRBの方針転換が、実質金利低下→長期金利上昇のメカニズムを狂わせるPhoto:PIXTA

通常であれば実質金利低下は一時的な長期金利低下をもたらすが、最終的にインフレ率上昇を通じて金利上昇要因となる、しかし、FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレ率の目標上振れ容認姿勢を転換したことで、早期の金融引き締めでインフレが抑制されるとの予測につながり、実質金利低下が金利上昇をもたらさない可能性が高まっている。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)

FRBは年内量的緩和縮小決定し
実施は22年年初からか

 7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では「経済は目標に向けて前進しており、委員会は今後の会合で引き続き進展を評価する」との声明が公表され、FRB(米連邦準備制度理事会)が債券買い入れの縮小(テーパリング)に向けて一歩前進したことが示唆された。

 パウエルFRB議長はテーパリングの決定について、今後のデータを重視する旨のコメントを発したが、数値的な基準は示せないとしており、つまり、テーパリングの決定についてはデータ・オリエンテッドとは言い難い。

 2023年以降の政策のフリーハンド確保のためにも22年初から「1年間をかけて」テーパリングを完了させるというのが既定路線となっている公算が高く、よほどのことがない限り、年末にかけてのFOMCでテーパリングが決定されることになりそうだ。

 気になるのはデルタ株の感染拡大であり、これによって9月の学校再開が難しくなるようであれば、オンライン学習に付き添わなくてはならない保護者が仕事に就けなくなる。また、部分的ロックダウンなどによって経済活動が制限されれば、サービス業における雇用の回復が遅れる可能性も出てくる。

 年末にかけての雇用情勢が明確に悪化するようであれば、テーパリングの決定が遅れる可能性もあるが、米国と同様にワクチン接種が進む英国では規制解除後も混乱なく経済の正常化が進んでいる模様であり、米国経済も正常化に向かう公算が高い。やはり年内のテーパリング決定の公算は高いだろう。

 FRBの出口政策が進展するなか、米国10年債利回りの年後半にかけての上昇への期待も高まりそうだが、年前半に債券を買い遅れた投資家等によって押し下げられた米国10年債利回りは1.1%程度でボトムアウトしたようにもみえる。