クレームの「現代史」と最新の傾向

 クレーム事情の変遷には、いくつかの節目がありました。

 まず、「クレーマー」という呼称を世に広めたのは、1999年に発覚した「東芝クレーマー事件」です。2001年の「雪印牛肉偽装事件」も、業界全体の補助金詐取事件の発覚につながり、大きな社会問題として取り上げられました。「食品偽装」を疑うクレームが多発した時期です。

 また、2007年には、北海道土産として人気が高い『白い恋人(石屋製菓)』や、伊勢名物の『赤福餅(赤福)』の消費期限偽装が相次いで発覚し、さらに高級料亭「船場吉兆(せんばきっちょう)」の産地偽装問題などが次々と発覚し、連日報道されました。

 こうした事件を背景に、企業に対する消費者の目がいっそう厳しくなったと同時に、企業側はその対応に頭を悩ませることになりました。

 私見で言えば、この頃から企業は「行き過ぎたお客様第一主義」の見直しを検討し始めました。つまり、世相を味方につけた悪質なクレーマーには、毅然とした態度で臨まなければいけないと考えるようになったのです。この頃、私のもとにも、全国の商工会議所や経営協会などから講演・セミナーの依頼が殺到しました。

 そうした中、2011年に東日本大震災が起き、一般企業へのクレームが激減しました。ところが2013年、阪急阪神ホテルズに端を発した食品偽装が社会問題化し、2014年から15年にかけて『マクドナルドハンバーガー(日本マクドナルド)』や『ペヤングソースやきそば(まるか食品)』などで異物混入が発覚すると、消費者の不安と不満は一気に再燃し、クレームの嵐が吹き荒れるようになりました。

 こうした風潮は食品関連に限らず、あらゆる業界に波及しました。また、企業だけでなく、医療や教育、行政の各機関に対する市民の目も厳しさを増しました。

 そして現在、クレーム事情はますます複雑化しています。消費者からの過剰な要求や理不尽な要求は、もはや「お客様の声」として対応できるレベルではなく、「ハラスメント」の領域として社会問題化しています。

 詳しくは本文で解説しますが、これは「カスタマーハラスメント」と呼ばれ、労働組合や国も対策に本腰を入れ始めました。ひとつ対応を間違えると、ブログやSNSにより瞬時に悪評が拡散する可能性もあります。

 また、超高齢化社会を迎えた今、「シルバーモンスター」の存在も大きな脅威です。たとえば団塊世代のクレーマーには、現役時代に培った交渉力を武器にクレーム担当者を「論破」すること自体が目的化したケースが増え、担当者の頭を悩ませています。