コロナ禍によって人と人との距離が遠くなり、誰もが「孤独」を感じやすい今。「相談できる人がいない」「自分一人で判断するのは難しい」と頭を抱える人は多いだろう。しかし、国内外の企業で数々の経営再建に携わり、NHK「SWICHインタビュー達人達」でコシノジュンコ氏と対談、著書『ぜんぶ、すてれば』は4万部超のベストセラーとなるなど、今注目を集める「77歳・伝説の経営者」中野善壽氏は、「個」を磨く「孤独」こそ最強の武器になると、11月17日に発売された最新刊『孤独からはじめよう』で述べている。
世界に1人しかいない自分の個性を信じ、感じること、考えることを楽しみ尽くす。過去にも未来にもとらわれることなく、今この瞬間を全力で生きる。そのためには、ただ素(す)の自分をさらけ出せばいい。本当に自分が納得できることだけやればいい。そのような生き方で他人に依存することなく、数々の企業で成果を出してきた中野氏に、孤独でも幸せを感じられる生き方について聞いた。
(取材・構成/樺山美夏、撮影/疋田千里)
10秒で人を信じられなければ、人生ヤバくなる
――「孤独」という言葉は「ひとりぼっちで寂しい」という意味ですが、中野さんにとってまったく逆ですね。著書を読むと、1人の時間を持つことで自分を信じ、他人を信じる力が強まって、とても豊かな人間関係を楽しんでいらっしゃる印象を受けました。
中野善壽(以下、中野) 人は人を信じるしかない。人を信じられなかったら、自分自身生きていられません。
10秒で人を信じることができなければ、自分の人生ヤバくなると思っているくらいです。自分が相手を信じるからこそ、向こうもこっちを信じてくれるわけですから。
よりよく生きていくためには、どれだけ早く人を信じられるかどうかが勝負。だからタクシーの運転手さんとも、短時間ですごく深い話に発展することもしばしばです。
ただ、人とのつながりは、適度な距離感やあっさり感がないと長続きはしないですね。ベタベタ深くつき合わないほうがいい。
改めてそう痛感したのは、コロナ禍で給料がもらえず実家にも帰れなくなった20代の知り合い5人と、期間限定で、僕の家で生活を共にした時です。
50歳以上も年が離れているから最初は賑やかで楽しかった。けれど、そのうち5人がテレビとか占領するようになって。僕はニュースも見られなくなった。しまいには、「あと何日で出ていくんだっけ?」と指折り数えるようになりました。
――居候させてもらっている相手の態度が大きくなっていったわけですね(笑)。
中野 そうそう。人との距離感が近くなりすぎて何でも当たり前になると、感謝の気持ちも表現しなくなるんですよね。
これは仕事仲間でも同じです。お互い些細なことでも「ありがとう」と言える関係でなければうまくいきません。かといって、遠すぎると言いたいことも言えなくなるので、適度な距離感は必要です。
ただ、若い世代と意識的に交流することはすごく大事です。たとえば、物事をぱっと理解するスピード感は我々世代とは全然違います。目と耳から入る情報の処理能力も速すぎて、ついていけないこともある。
音楽もそうですけど、若い世代に人気の曲はリズム感もスピード感も昔とは違うから、きっと感性も違うんだろうなと思います。
そういう気づきがいっぱいあるから、僕は若い人と過ごす時間が大好きで、よく話します。もちろん、適度な距離は保ちますけど。