転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。本書で取り上げたビズリーチや、その創業者である南壮一郎氏に、大きな影響を与えたのが、サイバーエージェントの藤田晋社長や同社の幹部たちです。人事制度や人材活用で数々の助言を与えたサイバーエージェント常務執行役員の曽山哲人さんに、ビズリーチに影響を与えたサイバー流の人材育成について話を聞きました(聞き手は蛯谷敏)。

■インタビュー1回目>「サイバー流人材育成術!「決断経験」の数を増やして若手を育てる」
■インタビュー2回目>「サイバー流!人が育つ「抜擢」「決断」「失敗」「学習」サイクル」

社長自ら失敗と挑戦を重ねるから、サイバーには挑戦しやすい文化が育ったサイバーエージェント常務執行役員の曽山哲人さん

――サイバーエージェントでは、「抜擢」→「決断」→「失敗」→「学習」というサイクルを大切にしているそうですね。しかし、失敗を許容する文化というのは、口では言っていても、なかなか現実にできている企業は多くありません。

曽山哲人氏(以下、曽山) 僕の理解では、多くのケースが意識改革の手前にあると思っています。つまり失敗するという前提をあまり念頭に入れずに議論しているんです。みなさん、失敗する可能性をあまり認識してない。

――成功することしか考えていないわけですね。

曽山 そうなんです。例えばサイバーエージェントでは以前、過去5年間に立ち上がった会社の5年後生存率を調べたことがあるんです。

 結果は、生存率50%でした。投資家の視点で見れば結構高いのかもしれませんが、現実には半分は吸収されたり統合されたりしているわけです。これが事業のリアリティなのに、初めて新規事業を立ち上げて、打率100%だと思っていることは間違いであるという思いが、我々の中にはあります。

 これはあくまで、私たちが経験から至った結論ですが、やっぱり失敗する可能性はあるのだから、それを前提にしてチャレンジャーを応援する方が、失敗した時の許容度は高くなる。失敗して会社に残りづらくなって辞めるといったことも起こらなくなります。

 あと、サイバーエージェントがよかったのは、社長の藤田(晋)や経営陣が、失敗に対する許容度が大きいことでしょう。今も覚えていますが、私が人事本部長になった16年前、ある新規事業が失敗したんです。その時に、藤田は、私に対して、「彼はチャレンジをして失敗したから、くれぐれもねぎらっておいて」と言ったんです。この「ねぎらっておいて」という言葉が、今も私の中に強い記憶として残っています。

 本人も恥をかいたり、プライドがボロボロになっているだろう。恐らく辞めたいという気持ちもあるだろうけど、とにかくねぎらってくれ、と。チャレンジをした人物を辞めさせることは、会社としてもマイナスが大きい。「だからどのような形でもいいから、ねぎらってあげて」と言ったわけです。

 そのあと、私も何回も面談をして、結果的にその人は辞めずに、その後は経営幹部になっていきました。よく、「チャレンジできる企業風土をつくりたい」といった議論になりますが、本当にそうした風土をつくりたいなら、失敗した人の事例を増やす必要があります。本当に周囲に失敗から学んだ人がいれば、人は安心感を覚えますから。

社長自ら失敗と挑戦を重ねるから、サイバーには挑戦しやすい文化が育った曽山哲人さんの新刊『若手育成の教科書』も発売中

――曽山さんのフレームワークは、「失敗」の認識を変えることが大きなポイントなんですね。

曽山 これも結果論ですけれどね(笑)。すべて、サイバーエージェントの中で活躍している社員を観察して見えてきた要素なんです。育て上手な上司も、意図していなかったかもしれないけれど、この4つの要素をしっかりとサポートしていました。

 僕自身、試行錯誤の中で失敗を重ねながら、見えてきた結果でもあります。最初から分かっていたことは一つもありません。

――体験に基づく理論は説得力がありますね。

曽山 多くの人は、もう抜擢されている時点で優秀なんです。才能はあるんです。それなのに、たった1回の失敗で立ち直れず、別の会社に転職してしまったら、本当にもったいない。その人にとっても学びが次に活かせないので、結果的に損失になります。

 自らチャレンジして失敗を繰り返す体験は、私だけでなく、社長の藤田もたくさん重ねてきています。ABEMAだって「3度目の正直だ」と藤田は言っています。創業期からメディア事業を目指し、いつか動画の時代が来ると思っていました。ブロードバンドが出始めた頃に挑戦して、その次はブログが盛り上がってきた時代にもチャレンジしたけれど、いずれもタイミングが合わず、思うようにユーザーが伸びないことから撤退に至りました。

 それでも2016年にまた挑戦した。スマートフォンの普及や動画サービスの浸透という環境が整い、テレビを再発明できるチャンスが来たと言って。常時接続で、大容量のネット時代ならではのテレビの楽しみ方は何か。生活者が喜ぶようなコンテンツは何か。今も、一生懸命模索しています。

 藤田や経営陣が今もチャレンジを続けていて、失敗しても諦めずに何度も挑戦している姿を見ているから、社員も挑戦しやすいという面もあります。(2021年12月23日公開記事に続く)