転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。本書で取り上げたビズリーチや、その創業者である南壮一郎氏に、大きな影響を与えたのが、サイバーエージェントの藤田晋社長や同社の幹部たちです。人事制度や人材活用で数々の助言を与えたサイバーエージェント常務執行役員の曽山哲人さんに、ビズリーチに影響を与えたサイバー流の人材育成について話を聞きました(聞き手は蛯谷敏)。

■インタビュー1回目▶「サイバー流人材育成術!「決断経験」の数を増やして若手を育てる」
■インタビュー2回目▶「サイバー流!人が育つ「抜擢」「決断」「失敗」「学習」サイクル」
■インタビュー3回目▶「社長自ら失敗と挑戦を重ねるから、サイバーには挑戦しやすい文化が育った」

「あした会議」があるから、サイバーエージェントでは新規事業が続々生まれるサイバーエージェント常務執行役員の曽山哲人さん

――サイバーエージェントでは、「抜擢」→「決断」→「失敗」→「学習」というサイクルを回して自走する社員を育てているとおっしゃいました。「自走」とはつまるところ、自分で課題を見つけて、何度も挑戦する作業ですよね。

曽山哲人氏(以下、曽山) いくら課題を見つけても、そこで止まっているだけでは十分ではありません。具体的なアウトプットの場も必要です。フレームワークは、コンセプトでしかありませんから。

 サイバーエージェントの場合、「あした会議」という取り組みが具体化の役割を果たしています。「あした会議」は、いわば新規事業の提案の場ですが、いわゆるビジネスプラン・コンテストのようなものではなく、役員会議に相当するレベルのものが求められます。

 提案内容は、例えば新会社をつくりますだけではダメで、社長が誰で、最初の戦い方はこういう形でいきましょう、という具体的イメージも詰めていきます。やろうと思えばすぐに事業化できるに作り込んでいくんです。

 経営の課題を見つけて、審査員である藤田に提案していく。30程度の提案のうち、15から20案くらいが決議されます。多い時は、1回の「あした会議」で、8社の新会社立ち上げが決まったこともあります。ゲーム事業など、現在のサイバーエージェントの柱となっているようなビジネスも、ここから生まれてきました。

 これまでに、あした会議から新会社が30社以上生まれていて、売り上げも、計算できるだけで3000億円。営業利益も400億円くらいになっています。

「あした会議」があるから、サイバーエージェントでは新規事業が続々生まれる曽山哲人さんの新刊『若手育成の教科書』も発売中

――藤田さんという、失敗を厭わないロールモデルがいて、それを抽象化したフレームワーク化があり、具体的な実践の場である「あした会議」のような取り組みもあるわけですね。

曽山 もしかしたら、これらすべてが、「自走する社員を育む場」の条件なのかもしれませんね。こういう仕組みがあることで、社員が自分の価値を高めるサイクルが回っていくのではないでしょうか。

――このような仕組みは、他社もまねできますか。

曽山 難度は高いと思います。というのも、経営課題は会社によって違いますから。大事なのは、すべては経営課題を解決するためにやるという点から出発することです。基本的に、会社の人事制度は、その会社の経営課題に沿ったものでなければ機能しません。

 例えばサイバーエージェントの場合だと、会社のビジョンが「21世紀を代表する会社を創る」。今の会社が21世紀代表なのかというと、まだまだ足りない。その状況の現実と理想のギャップがある中で新規事業をつくり成長し続けなければいけないという課題が、私たちにはあるんです。

 では、そんな会社をつくるには、誰が何をすべきなのか。社員に任せて新規事業だけをやっていても十分ではないという議論が生まれました。経営陣がもっとコミットして率先垂範すべきだという議論になり、「あした会議」の誕生につながりました。

――そもそも自分たちの課題は何かというところから始めないといけない、と。

曽山 自社のビジョンと課題から始めることが大切なんです。そこを徹底的に議論すれば、解決策はある意味、いくらでもつくれるとも思います。いい制度だからまねする、というのは確かにありですが、手段の目的化の罠にはまらないように注意する必要はあります。そもそも何のためにそれをやるのか。そこから始めましょうということです。

――ビジョンや課題を意識するというのは、個人の生き方にも言えそうですね。

曽山 個人的には、社員の持つ課題意識と会社の課題意識が一致すると、理想だと思います。組織の課題を見つけて、個人として自分が解決する。目線は自分の課題解決もいいんですが、その中で、どれだけ組織貢献を意識できるかを考えられたら、社員の成長はさらに加速するでしょうね。