不安を消すためには
「自分の言葉」を持つこと

──最近「不安をなくすために・人と比べないためにするべきこと」といったようなライフハックもよく見かけるのですが、根本的な解決のためにはそういったお手軽な方法を試すよりも、phaさんが紹介されていたような本を読む方が有効かもしれませんね。

pha:「今すぐに効く読書」が必要なときも当然、あると思うんです。ただ、やっぱり「すぐに効く」ものって栄養ドリンクみたいなもので、効果が持続する時間も少ない。だから、根本的な解決をしたければ、長い時間はかかるかもしれないけれど、「ゆっくり効く読書」をするべきだと思います。

「成功できないのは本人の努力不足」が根本的に間違いである理由

 僕が今のようにラクに生きられているのは、さまざまな本との出会いがあったからなんですよね。「すべてを自己責任で考えなくてもいいんだ」とダメな自分を肯定できているのは、「社会学」「脳科学」「進化論」などの本の影響があります

 たとえば社会学は人間を個人の単位で見るのではなく、社会全体の視点から説明しようとする学問ですが、そうした本を読んでいると、「自分の意志なんてすごくちっぽけなんだな」ということを実感します。「社会」という大きなシステムの中で生きていると、個人の意志で決定していることなんて実はあまりなくて、周りの環境に選ばされているだけんじゃないか? と、思えてきます。

──物事を俯瞰して見ているようなイメージでしょうか。

pha:そうですね。大きな視点で考えると、目の前のトラブルや悩みも比較的どうでもよくなるというか。僕ももちろんワーッと慌てることもありますが、「でも社会全体で見たらこんな問題、よくあることだよな」と思うと冷静になれたりしますね。本の中では、手軽に社会学的思考に触れられる本として、岸政彦さんの『NHK100分de名著 ディスタンクシオン』をおすすめしています。

──『人生の土台となる読書』の帯には「この1行で、不安がなくなる」というコピーがありました。「不安がなくなる読書法」ってどういうことなんだろう? と思っていたんですが、そういう意図もこめられていたんですね。

pha:俯瞰する視点を得られるのは、読書の大きな効能だと思います。言語というのはメタ視点から現実を眺めるためのツールですからね。

 自分に自信が持てなくて不安な人に必要なのは、「自分だけの言葉で武装すること」。人は言葉を使ってこの世界を認識しているから、この世界は言葉でできている。だから、自分の世界を作るためには、自分だけの言葉を持たないといけない。そうでないと、社会とか他人とかが「これが正しいよ」と押し付けてくる言葉に飲み込まれ、振り回されてしまう。

 でも自分だけの言葉を持っていれば、周りの圧力に抵抗することができる。この本の中で紹介していますが、穂村弘さんは『短歌という爆弾』の中で「世界を変えるためには、自分だけの呪文を持たなければだめだ」ということに気づいて、短歌を作り始めたということを言っています。

 周りにうまく馴染めない自分に不安になったり焦ったりしたとき、自分を守ってくれるのは何よりも本だったりします。身の回りにいる誰よりも、一度も会ったことのない人が書いた本のほうがずっと自分のことを理解してくれる、ということもよくあります。

自分は自分のままでいてもいいんだ」「社会に合わせなくてもいいんだ」と思わせてくれる読書の方法を、今回はまとめたつもりです。自分らしく自由に生きたい、そんな思いを抱えている人に読んでもらえたら嬉しいです。

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第1回 自己啓発本を「読むべき人」「読まなくていい人」決定的な差

「成功できないのは本人の努力不足」が根本的に間違いである理由pha(ファ)
1978年生まれ。大阪府出身。現在、東京都内に在住。京都大学総合人間学部を24歳で卒業し、25歳で就職。できるだけ働きたくなくて社内ニートになるものの、28歳のときにツイッターとプログラミングに出会った衝撃で会社を辞めて上京。以来、毎日ふらふらと暮らしている。シェアハウス「ギークハウス」発起人。新刊『人生の土台となる読書』(ダイヤモンド社)を上梓した。
「成功できないのは本人の努力不足」が根本的に間違いである理由