アーキテクトとして考えることを、心の底から楽しむ
2021年11月に将棋の藤井聡太さんが最年少での四冠を達成しました。豊島竜王との感想戦では、1日をかけて番勝負を戦い終えた者たちとは思えないような、活発な読み筋の披露と検討がなされていました。
対局後のインタビューでの「終局してすぐに浮かんだのは、タイトルを獲得した実感ではなくて、『将棋のことをもう少し考えていたい』という思いでした」「純粋な将棋の楽しさを共有できたことが、本当に幸せだったと思います」という発言からもわかるように、周囲の期待とは裏腹に、藤井さんは目先の結果ではなく、将棋の真理を追い求めているように感じます。さらには、アーキテクトとして考えることを心底楽しんでいるようにも見えます。
定期テスト、受験戦争、就職氷河期、資格試験―これらを乗り切るための作業ととらえれば、勉強や思考訓練というのは、つらい作業でしかありません。歴史の年号や古典の活用表、微分積分、一般教養など、社会に出てしまえば役に立つものは数知れています。
しかし、本来これらは、具体と抽象を学ぶために設計されたカリキュラムです。
歴史を単なる年号のリストととらえるのか、抽象化して学びを得て未来を予測するために使うのかでは、大きな違いがあります。数学の公式も、答えを得るためのツールと捉えるのか、公式を導き出すプロセスを抽象化して将来、独自の公式を考案するために使うのかでは、全く意味が異なります。
明るい未来を創造するために、昨日よりも今日、今日よりも明日、素晴らしい日々を生きるためにそれらの学びを活用するのは、とてもワクワクすることではないでしょうか。
アーキテクト思考についても、暗く、つらいものではなく、未来に向けた楽しい活動だととらえてみてください。
本連載が、読者がアーキテクトとなり、自らの人生やビジネスを自らの手で設計する一助になれば幸いです。
ビジネスコンサルタント・著述家
株式会社東芝を経て、アーンスト&ヤング、キャップジェミニ、クニエ等の米仏日系コンサルティング会社にて業務改革等のコンサルティングに従事。近年は問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や各種団体、大学等に対して国内外で実施。主な著書に『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)、『具体と抽象』(dZERO)『具体⇔抽象トレーニング』(PHPビジネス新書)、『考える練習帳』(ダイヤモンド社)等。
坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者・
キャップジェミニ・アーンスト&ヤング、日本コカ・コーラ、