得意・不得意で仕事を選ぶ人が陥る一つのワナ

──何をやってもうまくいかない、結果が出ない気するという人も多いですよね。

井上:いろいろなことに挑戦して活動の幅を広げること、転職すること、独立を目指すこと……。それ自体はとてもいいことだと思うんです。私自身も、「いつアナウンサーを辞めてもいい」「いつでも転職できる」くらいの気持ちで働いていますしね。

ただ、「仕事というものは、他人から求められることで初めて成立する」という現実は、いつも心に留めておかなければならないと思うんです。いくら自分がやりたいことであっても、求める人がいなければ、趣味と同じだからです。

「頑張っているのになぜか報われない」根本的な理由

──「自分の得意なことを極めよう」という風潮も、最近強いように思いますが。

井上:私は、自分の得意・不得意で仕事を選択しないようにしています。「不得意なことのほうが伸び代があって面白い」という、私の天邪鬼な性格のせいもありますが(笑)、何よりも得意な仕事ばかりしていると、「できる仕事」は減っていくんですよ。

たしかに、得意なことをやっていれば成果も出しやすいし、失敗もしにくい。短期的にはいい選択でしょう。でも、長期的には自分の可能性を狭める恐れがあります。年齢とともに体力面や精神面で「できる仕事」が減っていくので、極端に守備範囲が狭くなってしまうんです。

いまは、先が読めない時代ですから、選り好みせず、もらった仕事に対して、まずは全力で挑む。それが、あとになって役に立つときが来るんじゃないか。そんな気持ちで、いつも仕事をしています。

──今回お話を伺えて、本当によかったです。井上さんでも苦しみながら進んでいらっしゃるという事実に、励まされる人はとても多いと思います。

井上:いや、私なんて、まだまだです。何もできていないし、30代後半になってようやくスタートラインに立てた、ああ、まだここか、もっともっと先に行かなきゃという焦りもある。そんな悔しさをエネルギーにして日々、仕事をしています。正直、自分に自信がぜんぜんありません。

でも、それくらいでちょうどいいとも思っています。夢がなくていい、報われなくていい。死ぬ直前になって、「ああ、俺、けっこううまくやれたかもしれないな」と思うくらいでちょうどいい。みんな、そうだと思うんです。だから、みんなつらくて大変だと思うけど、一緒に頑張ろうよ。私の著書『伝わるチカラ』には、そんな想いも込めています。何か、少しでもお役に立てたら嬉しいですね

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