ダイエット、禁煙、節約、勉強──。何度も挑戦し、そのたびに挫折し、自分はなんて意志が弱いのだろうと自信をなくした経験はないだろうか?
目標を達成するには、「良い習慣」が不可欠だ。そして多くの人は、習慣を身につけるのに必要なのは「意志の力」だと勘違いしている。だが、科学で裏付けされた行動をすれば、習慣が最短で手に入り、やめたい悪習も断ち切ることができる。
その方法を説いた、アダム・グラント、ロバート・チャルディーニら一流の研究者が絶賛する1冊『やり抜く自分に変わる超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』(ウェンディ・ウッド著、花塚恵訳)より一部を公開する。

【科学で解明】あなたの禁煙が失敗する本質的な理由Photo: Adobe Stock

知識と意志は禁煙の手助けにならない

 喫煙者にタバコのリスクを伝えても、喫煙率には少ししか影響しなかった。1964年のSGRで危険性が報告されてもなお、アメリカにおけるタバコの売上は1980年まで右肩上がりが続いた。習慣を制御するうえで、知識は手段として弱いのだ。

 意志の力も大した助けにはならない。ニコチンの力にはとうてい及ばない。CDCの報告によると、喫煙者の68パーセントが完全な禁煙を望んでいるという。しかし、試みた人はたいてい失敗する。禁煙に完全に成功するのは、実際のところ10人に1人だ。ほとんどの人は、禁煙を始めてだいたい1週間もしないうちに、またタバコを吸ってしまう。30回以上挑戦してやっと成功した人もいる。

 成功するまで繰り返し禁煙に挑戦するには、超人的な自制を要する。はっきり言って、30回以上も挑戦する喫煙者については、失敗の数の多さは問題ではない。むしろそれは、類いまれな粘り強さが備わっている証であると理解すべきだ。それだけ挑戦し続ける彼らの意志の力は、本当に強力だ。それほどの粘り強さを持つ人々は少数派だ。

 では、そうではない大多数の人々はどうやって成功したのか? 知識と意志の力が答えでないのなら、何が功を奏したのか? ごくふつうの多くのアメリカ人は、どうやって禁煙を成し遂げたのか?

 1970年、世界中の人々がテレビに貼りついた。その時代を象徴する「アポロ13号」のテレビ中継を観るためだ。最初は恐る恐る観ていたものの、その後驚きに襲われ、最後には安堵した。このような放送は、もう二度と観ることがないだろう。

 そして、アメリカ人がもう二度と観ることがないものがもうひとつある。その年の12月に放送された、「やっとここまできたね」のメッセージを携えたテレビCMだ。その内容は、喫煙を女性の解放になぞらえて、ギルバートとサリヴァンのオペレッタの曲がBGMで流れるなか、19世紀の服装をした婦人参政権に否定的な人々に向かって女性の解放と女性の参政権を唱えるものだった。このバージニアスリムのCMは、アメリカのテレビで最後に放送されたタバコを宣伝するCMとなった。

 そうなったのはニクソン大統領のおかげであり、公衆衛生喫煙法に署名した彼に感謝したい。ほかにも、ニコチンの常用を公的に認める措置が次々に消えた。タバコの自動販売機があったことを覚えているだろうか? 昔は、ビーチでも、電車でも、オフィスでも、喫煙が認められていた。

禁煙に効果的な環境は?

 タバコ規制法により、アメリカでタバコを吸う人々の環境は様変わりした。この法律はさまざまな意味で、喫煙環境を文字どおり小さく遠いものにした。いまではタバコを吸おうと思ったら、エレベーターで1階まで降りて屋外で列をなすことになる。環境が変わったとたん、人々の習慣も変わったのだ。

 これについては実験にもとづく検証ができる。アメリカでは州によってタバコを規制する法律が異なるため、比較できる可変要素がいくつもある。つまり、自然実験のような条件が整っているので、効果のある方針を特定できるのだ。

 たとえば、職場、レストラン、バーでの喫煙を禁じる州は少なくとも28あり、都市や郡単位で禁じているところもたくさんある。そのため、アメリカ人の約60パーセントは、タバコを吸いたくても自宅や自家用車以外にほとんど吸える場所がない。この種の禁止令には効果があるようだ。

 喫煙率が最低の10州のうち9州に、職場、レストラン、バーでの喫煙を禁じる法律がある。喫煙率トップの3州(ケンタッキー、バージニア、ミシシッピー)に、そうした法律はない。この3州では、住民のほぼ3人に1人がタバコを吸う。禁止令が出ても欲求は変わらない。だが、その法的措置は喫煙習慣と真っ向から衝突し、習慣がそれに勝てる見込みはない。

 その本質がよく表れているのが、英国のパブにいた65名の喫煙者が参加した実験だ。その実験の参加者たちは、喫煙が規制されてからは、タバコを吸ったら罰金が科されると理解していた。だが、タバコに火をつけるいつもの合図(パブに入って酒を飲む)が、彼らにいつもの行動を促し続けた。

 実験に参加した半分近くの人が、パブに入ったら意図せずにタバコを吸い始めた。彼らにとって、喫煙は自動的に行うことであり、「パブに入る-タバコに火をつける」はワンセットなのだ。参加者たちの話には、彼らの苦悩が見て取れる。

「ええ、タバコに火をつけたとたんに思い出して、外に出ました」「はい、先週やってしまいました。何年もやってきたことだし、古くからの習慣は簡単にはなくなりませんよ」「タバコを口にくわえはしたが、火をつける前に思い出す。そういうことが何度かありました」

 彼らの苦悩はニコチンとはあまり関係がない。なぜなら、ふだんたくさん吸っていたか、たまに吸うだけだったかに違いが見受けられなかったからだ。吸う量が多いからタバコに火をつけてしまうのではない。元凶はただひとつ、彼らの習慣だった。