味の素 絶好調下の焦燥#5Photo:PIXTA

味の素が次の切り札と位置付けるのは医薬品製造受託事業だ。巨額の投資競争が繰り広げられる製薬業界で、勝ち組になれるのは一握り。しかし、味の素は「大型投資なし」でも勝算が見えているという。特集『味の素 絶好調下の焦燥』(全7回)の#5では、医薬品製造受託事業のもうけのカラクリに迫る。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)

味の素医薬品製造受託での戦略
「投資競争はリスク、大型投資はしない」

「ヘルスケアの世界で気を付けなければならないのは、『投資競争』に陥るリスクだ。数千億円規模の投資をしたというニュースも多いが、絶対にやらない。これはわれわれの戦略だ」

 味の素で研究開発を統括する白神浩副社長はこう力を込める。

 売上高の1割以上を研究開発費に投じることも珍しくない医薬品業界。当たれば莫大な収益を見込める新薬を形にするため、各社は投資競争を繰り広げる。ある医薬品業界関係者は、「この世界は“ばくち”だ。少しでも成功確率を高めたいから投資する。各社同じ事を考えるため、投資競争に陥る」と語る。

 食品メーカーである味の素も、医薬品を新たな成長の切り札として位置付ける。とはいえ注力するのは新薬の開発ではなく、安定した収益が見込める「CDMO」と呼ばれる製薬企業向けの医薬品受託製造だ。味の素の医薬品受託製造の歴史は古く、1989年より手掛けている。

 新薬の研究開発には莫大な資金が必要になる。かつては一つの新薬ができるまでに500億円程度かかるとされていたが、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの2020年の調査によれば、近年は平均で約1800億円(13.3億ドル)と負担が増えている。

 研究開発への投資資金を確保するため、製薬業界では水平分業が進み、CDMOのニーズは強まっている。世界のCDMOの市場規模は20年に約1500億円だったが、30年には4500億円規模にまで拡大するとの推計もある。

 味の素同様にCDMOを手掛けようとする異業種の動きも活発化しており、精密機器大手のニコンや、酒類大手の宝ホールディングス傘下のタカラバイオ、繊維製品大手の帝人や化学大手の旭化成などもプレーヤーとなっている。国内CDMOの最大手は、富士フイルムホールディングスだ。同社は、22年6月に製造設備拡大など総額約2000億円もの大規模投資を発表している。

 しかし、味の素は白神副社長の言葉が象徴するように大型投資には否定的だ。いわば、医薬品業界の“逆張り”で挑むことになるが、「勝算がある」と自信を示す。そのカラクリとは何か。

 次ページ以降では、味の素が医薬品事業で大型投資なしでも勝算があるカラクリを示すとともに、CDMOの主要事業における「設備投資の金額規模」についても明かす。