エネルギー価格の上昇、サプライチェーンの混乱といった足元のインフレ要因はいずれ解消する。しかし、現在起きている世界経済の構造変化は、今後長期間にわたり物価を押し上げていくだろう。インフレ圧力を高めている要因を解説するとともに、その構造変化において注目すべき長期の投資テーマを取り上げる。(クレディ・スイス証券株式会社 ウェルス・マネジメント チーフ・インベストメント・オフィサー・ジャパン 松本聡一郎)
供給網の混乱やエネルギー・食料
価格の高騰はいずれ収まる
世界経済のサイクルは、タクティカル(短期的)には下向きの局面に入っている。大幅利上げが需要を抑制し、企業がコスト上昇分を価格転嫁で補う余地は、次第に狭まっている。
金融引き締めにより、先進諸国の株価バリュエーションはすでに大きく低下している。これからマーケットは、各国の企業業績悪化や期待成長率低下の度合いを織り込む展開となるだろう。
ファンダメンタルズの悪化が進みインフレ圧力が低下するめどが立つと、マーケットは金融引き締めプロセス終了を期待するようになるだろう。ただ今回、利上げ終了が直ちに金融緩和による景気下支えにはならないことに注意が必要だ。
その背景には、世界経済の大きな構造変化により新しい経済モデルへの転換(経済のグローバル化が後退し、多極化が進んでいくこと)が進んでいることがある。
パンデミック後の経済活動再開初期のインフレには、サプライチェーンの混乱や各国のコロナ政策の違いから経済再開に大きな差が生じたことに加え、ロシアによるウクライナ侵攻によるエネルギー、食料価格上昇の影響が大きかった。
これらはいずれ解消する可能性の高い要因だ。しかし世界経済の構造が変化することの影響は、これから長期間にわたり物価を押し上げていくことになるだろう。
この転換が潜在的なインフレ圧力を高めている主な要因を、いくつかピックアップし、次ページから解説していく。