インフレ「ピークアウト後」に、株式市場が“勝ち組企業”を選別する基準Photo:PIXTA

インフレにピークアウトの兆候が見えつつあるが、コロナ前のようなディスインフレ状態の回復は望めないだろう。民主主義国と権威主義国の対立によるサプライチェーン見直しもあり、企業にとってコスト高は常態化する。そうした状況下で、株式市場が企業を評価する基準を解説する。(クレディ・スイス証券株式会社 ウェルス・マネジメント チーフ・インベストメント・オフィサー・ジャパン〈日本最高投資責任者〉 松本聡一郎)

インフレピークアウトの兆候で
株価はリバウンドしたが

 クレディ・スイスが昨年末発行した2022年のアウトルックでは、2000年以降の経済グローバル化が終焉に向かい、経済は長年のディスインフレ状態から脱却し、景気は好不況を繰り返すようになるだろうと考えていた。

 主な背景には、世界的な人口減少傾向に加え、世界経済がいくつかのグループに分断されサプライチェーンの生産性が低下することや、労働力などの調達コスト上昇があった。

 これに織り込めなかった新しい出来事の一つとして、ロシアのウクライナへの侵攻とその長期化がある。これによりエネルギーや食品の価格上昇に拍車がかかった。さらに中国のゼロコロナ政策徹底によりサプライチェーンの回復が圧迫されたことも影響し、インフレは年初の想定より高い水準へと押し上げられている。

 欧米の中央銀行はインフレ抑制のため金融引き締めを加速させたことで、マーケットではリセッション懸念が高まり投資家のセンチメントは6月にかけて急速に低下した。

 ただ7月に入り想定以上のペースで上昇してきたインフレ率にピークアウトの兆候が見え始めたことで、センチメントの悪化も一巡している。

 恐怖指数ともいわれ、投資家のセンチメントを図る指標の一つであるVIX指数の動きを見ると、6月までは何度も急上昇を繰り返したが、7月に入り低下傾向を強め、安定した水準に戻っている。

 センチメントの改善に伴い、株式などのリスク資産の価格もリバウンドしており、米国株の指数であるS&P500は6月安値水準から約15%上昇している。

 経済成長への慎重な見通しが広がる中、企業業績については、第1および第2四半期の決算とも堅調な伸びを示している。ただ株価が急速にリバウンドしたことで、バリュエーションの割安さは後退しており、過去の水準と比較して平均的な水準となっている。

 また、欧米の中央銀行による利上げが継続する状況では、バリュエーションの拡大による資産価格上昇は期待しづらい。

 資産分散投資では、リターンの高さだけでなく、リスクについても慎重に検討する必要がある。ファンダメンタルズの実態以上に悪化したセンチメントやバリュエーションの割安さを背景に推奨してきた逆張りアプローチについても、立ち止まり冷静に再考してみる機会となるだろう。

 では、どのような基準で企業を評価していくべきなのか。次ページから解説していく。