2022年に入っての各国中央銀行の利上げ競争は、23年に向けて景気後退の懸念を増大させている。それゆえ、現在、市場の最大の関心はインフレがいつ収束し、利上げがいつ止まるかにある。その震源地である米国のインフレに鎮静化をもたらす要因は何かを分析する。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)
コロナ禍からの回復期待を景気減速への懸念に
変えたウクライナ侵攻と中国のゼロコロナ政策
コロナ禍からの回復がメインテーマとなるはずであった2022年のグローバル市場であるが、これまでのところ、「世界的なインフレと各国中央銀行による利上げ」が最大の関心を集めるテーマであり、23年に向けては景気減速への懸念すら高まりつつある。
英国政府における「インフレを加速させかねない減税政策」など、日替わりで懸念材料が出てくるような市場であったが、「回復」への期待を「減速」への懸念に変えた最大のカタリストはロシアによるウクライナ侵攻であり、また、中国によるゼロコロナ政策であった。
10月16日の共産党大会開幕を前に、党機関紙の人民日報は「ゼロコロナ政策だけが中国で多くの犠牲者を回避できる唯一のやり方だ」とする論評を掲載したが、GDP(国内総生産)世界第2位の中国におけるゼロコロナ政策の長期化が世界経済に及ぼした影響は相当に大きいといえる。
欧米製のmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンが世界的に「オフィシャル」なワクチンと認定されるなか、それに先駆けて開発した自国製ワクチンを普及させた中国はmRNAワクチンを取り込むチャンスを逸した格好だが、結局、これがあだとなり、ゼロコロナ政策を継続せざるを得ない状況となっている。
頼みの不動産市場も度重なる金融緩和策の割には盛り上がりに欠ける状況であり、IMF(国際通貨基金)は10月のWEO(世界経済見通し)で22年の中国の成長率見通しを7月の3.3%から3.2%、23年については同4.6%から4.4%へと引き下げている。
これが欧州や新興国へと波及するなか、ロシアによるウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格高騰や地政学リスクが主に欧州の景況感悪化を促しており、市場参加者が口にするのは「懸念」のみというのが現況である。
ただ、これらの懸念材料は米国経済に対して直接的な悪影響とはなっていない。ドイツなどに比べれば米中の直接の貿易関係は深いものとは言い難く、また、米国はシェールガス、シェールオイルを採掘する資源国でもある。
その米国が中心となって進む利上げ競争が景気減速への「懸念」をさらに増大させている。利上げの原因である米国のインフレの鎮静化はどうやってもたらされるのか。次ページ以降、検証していく。