(3) 基礎年金の給付調整期間の短縮
「給付調整期間」というのはマクロ経済スライドのことである。本来、年金支給額は賃金・物価連動であるが、年金財政を維持するために一定期間を定めて物価上昇よりも年金受給額の伸びを抑えるようにしているのが「マクロ経済スライド」である。
ところがこの仕組みは長年デフレが続いてきたため、十分に機能せず、当初はこの調整期間が2023年で終了する予定であったものが現状では2046年度まで続く見込みとなっている。一方、厚生年金は2025年で終了する予定だが、この両方の財源を調整することで厚生年金と基礎年金の調整期間を一致させ、2033年に終了させるという案が浮上してきている。
実はここでも大きな誤解がある。厚生年金加入者である会社員からは「我々の厚生年金を自営業者の国民年金に流用するのか!」という声が出てきているのだが、実際はそういうわけではない。なぜなら国民年金(基礎年金)というのは必ずしも自営業者だけのものではなく、会社員の年金の1階部分でもあるからだ。したがって改正によって厚生年金が減ったとしても基礎年金部分の方が多く増えるケースがほとんどとなる。
もちろん厚生年金の報酬比例部分は給与によって保険料および将来の給付額は異なってくるので、一部の会社員にとってはマイナスになることもあり得る。具体的に言えば、働いている全期間の平均年収が1790万円以上というかなりの高所得者層にとっては減ることになるが、それだけの給料をもらっている人たちはほんの一握りにすぎない。
結果としてここでも大多数の会社員にとっては将来の年金が増える効果が見込まれる。
年金に関する制度改革が行われると、ほぼ条件反射的に「改悪」と騒ぎ立てる人たちが多いが、その中身や報告されている数字をきちんと検証した上で述べているとは到底思えないような印象を受ける。社会保険制度というのは「共助」の考え方に基づくものであり、参加する人が多くなればなるほど制度は安定する。
根拠のない不安にあおられた結果、年金保険料を払わずにいることで将来、年金給付が受けられないという不幸な目に遭ってしまう人たちを増やすようなことになってはいけない。
年金制度というのは感情的にならず、冷静な議論を進めていくことが重要なことといえるだろう。