(2) 厚生年金の適用拡大
これは今年の10月から既に実施されている制度をさらに一層拡大しようというものだ。昨年の自民党総裁選でも、岸田首相が「厚生年金の適用拡大が年金制度改革の本丸だ」と主張していたが、10月25日に開催された年金部会第1回会合でも多くの委員がこの考え方を踏襲している。
厚生年金の適用を広げようとしている対象は週20時間以上30時間未満の短時間労働者で、賃金が月額8万8000円(年額約106万円)以上などの要件を満たす人たちが該当する。従来はこれらの人たちのうち、従業員数501人以上の企業が厚生年金の加入対象となっていたが、今年の10月からは101人以上、そして24年10月からは51人以上が該当するようになる。
今回の議論では対象企業の規模要件の撤廃が俎上(そじょう)に載ることになるだろう。厚生年金に入れる人を増やすことで老後の備えを充実させようということだ。11月15日の日本経済新聞にも加藤厚生労働相のインタビューが掲載されており、撤廃しようという意向のようである。
これについても“これまで社会保険料を払う必要のなかったパート主婦の負担が増える”という批判があるが、これも少し違う。
なぜなら厚生年金に入っていない短時間労働者というとパート主婦ばかりがイメージされるが、実際に短時間労働者で一番多いのは1号被保険者、つまり正社員になれず、非正規で働いている人たちなのだ。これらの人たちが厚生年金に加入できるようになると自分が負担する保険料は少なくなる。厚生年金保険料の半分は事業主が負担することになるからだ。
すなわち、自分が負担する保険料が減る一方で将来の年金は増えるし、同時に加入する健康保険によって病気やけがをした場合の傷病手当金や出産手当金等も増えることになる。それまで厚生年金に入れなかった社会的に弱い立場にある人たちにとって、非常にメリットは大きい。
さらに今まで社会保険に入っていなかったパート主婦もこれに入ることによって一時的には手取り収入は少なくなるだろうが、よく言われている106万円の壁にこだわらず働く時間を延ばせばそれまでよりも手取りの金額は増えるし、もちろん将来の年金額も増える。以前にこのコラム『パート主婦が扶養・控除の「年収の壁」を気にせず働いた方がいい理由』(8月17日付)でも書いた通り、平均寿命が長い傾向がある女性にとっては、将来の年金給付額を多くしておくことはとても重要なのである。