「失敗というか、選手のみなさんが食べなかった料理は出さないようにしています。例えば一度だけハンバーグと銀ダラの西京焼きを一緒に出したときに、銀ダラは食べるけどハンバーグはほとんど残ってしまったことがありました。以来、メインのおかずは一つでいいかなと思うようになりました」

 もっとも、ハンバーグも銀ダラの西京焼きも、単品で出したときにはすこぶる評判がいい。いつしか順に出すようになり、さらに疲労回復効果のあるビタミンB1や、多数の体内組織の機能や発達を正常に維持するのに必要なビタミンB12を多く含むウナギと続くようになった。

「炭水化物を、要はご飯をたくさん摂取してもらうために、いわゆるグリコーゲンローディングのためにウナギのかば焼きを出すようにしている、というのもありますね」

 グリコーゲンローディングとは、サッカーならば試合の数日前から食事を介して多くの糖質を摂取。運動時の重要なエネルギー源となる筋グリコーゲン濃度をあらかじめ高めておくことで、パフォーマンスの向上を狙うものだ。ご飯が進むように、西さんは国産ウナギにこだわってきた。

 しかし、カタールW杯は食材をめぐる状況が大きく異なる。これまで4度のW杯は日本からチャーター機で往復していたが、今大会は定期就航便に変わった。同時に食材のほとんども、西さんは「現地で調達しています」と語る。ただ、ウナギに関しては出発する2カ月以上も前に手を打った。

「向こうのサプライヤーを通して静岡の国産ウナギを(カタールの業者が)輸入していますので、これまでと何ら変わらないですね。冷凍にした状態で、すでにコンテナで運ばれています」

 しかし、豚肉は現地調達すらできない。国産ウナギのように、事前にカタールの業者に輸入しておいてもらう手も使えない。イスラム教では豚肉を食べる行為が最も禁忌とされているからだ。ただ、西さん自身にとっても、イスラム圏への帯同はもちろん初めてではない。

「豚肉を食材として使えない状況でビタミンB1やB12を取るために、例えば牛のレバーを多めに使うこともあります。鳥のレバーでもいいし、もちろんウナギもそうですけど、豚肉の代わりになるものをメニューの中にちょっと多めに入れようかなとは考えてます」