大統領室はMBCに対して
専用機搭乗を許可せず
大統領室は11日から尹錫悦大統領がASEAN首脳会議とG20首脳会議に参加した際の専用機に、MBC取材陣の搭乗を許可しなかった。
大統領室は、MBC側に「大統領専用機の搭乗は外交安保懸案に関連して取材上の便宜を提供してきたが、MBCの外交関連歪曲(わいきょく)、偏向報道が繰り返されてきた点を考えて、取材上の便宜を提供しないことにした」という内容のメッセージを送った。
そのきっかけとなったのは、9月21日にニューヨークでバイデン米国大統領と会った後、会場を出る際「国会でこのXXらが承認しなければ、バイデンはメンツ丸つぶれだな」と発言したとして、その内容を字幕付きで報じて既成事実化した、という疑惑である。
この発言内容に関しては、専門家も確認しにくい音声であったという。大統領室は「MBCに対し真相の確認を求め、事実でない場合には国民に知らせる義務がある」と指摘している。大統領室は、大統領の発言を既成事実化することは「取材倫理に反する、明白に国益と外交成果を損することだった」と強調した。
これに対し、MBCは「特定報道機関の大統領専用機搭乗拒否は軍事独裁時代にもなかった前代未聞のこと」「搭乗拒否が言論の自由を深刻に制約する行為」と批判した。
また、大統領室の出入り記者団は会合を開き、MBC記者に対する大統領専用機への搭乗不許可は認められず、共同対応が必要だということで同意した。追加的な議論を通じて具体的な対応方針を決めることにしたと報じられている。
さらに、外信記者クラブは「歪曲とみなした報道を理由に該当メディアに制限措置を講じたことは内・外信全ての言論の自由に対し懸念を抱かせる」との声明を発表した。
MBC労組が民主労総系であることも
尹錫悦政権との対立の背景か
民主労総に加盟する組合に全国言論労働組合があり、その中心となっているのがMBCとSBS(ソウル放送)の労働組合、ハンギョレ新聞の労働組合などである。
2012年にはMBCで社長退陣を求めるストが行われ、韓国政府は違法ストとみなし対立した。
先述のニューヨークでの尹錫悦大統領の私的発言をめぐる放送についても、共に民主党の朴洪根(パク・ホングン)議員が、MBCが報道する前に党内の公式会議でその内容を発言していることから、共に民主党とMBCの間で癒着があったのではないかという疑惑が持ち上がっている。
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大統領専用機への搭乗拒否が報道の自由の制約に当たるかどうかについて、報道関係者から大統領室に対し、一斉に批判があることは事実である。
半面、MBCと民主労総との関わりから、MBC側の報道姿勢に尹錫悦政権糾弾という政治的な意図があったとの疑惑は否定できず、MBC側で報道内容の事実確認を行う姿勢が見えないことから、報道の公平性に疑念が生じているのも事実である。
この問題は、民主労総による尹錫悦政権糾弾、尹錫悦政権の民主労総との対決姿勢の鮮明化という流れの中で、今後も対立は続く可能性がある。
(元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)