たった1回の発信で、
遠方から問い合わせが来た

 最近、栁沼さんがうれしかったこと。それは、支援した設備工事業者からの「たった1回の発信で遠方のお客さんから問い合わせが来た」という驚きと喜びの声だ。長く地域でチラシを配って集客していた設備工事業者が、栁沼さんたちの伴走によって新たな一歩を踏み出した瞬間だった。

 新たな一歩を踏み出したのは、栁沼さんも同じだ。

「子育てを通じてスキルアップできることはたくさんあります。でも、子どものためという意識が強かった。今は、自分の成長のために一生懸命になれるのがうれしいです。自分が生き生きできる空間がここにはあるというか」

ケイリーパートナーズの社員 栁沼さん(左)と代表取締役 COO 鷲谷恭子さん。取材の間、絵本を読んで待っていてくれたお子さんとケイリーパートナーズの社員 栁沼さん(左)と代表取締役 COO 鷲谷恭子さん。取材の間、絵本を読んで待っていてくれたお子さんと Photo by M.S.

「次は私が子育て中の仲間をサポートできるよう、スキルアップしておきたいなって」。そう言って栁沼さんはお子さんと手をつなぎ、まだ明るいうちに会社を後にした。

2019年、ワークシェアリングで
1日2時間から働く「2hours」を開業

 ケイリーパートナーズ 代表取締役 COO 鷲谷恭子さんは、2019年5月、子育て中の女性がワークシェアリングによって1日2時間から働く「2hours」を開業。同年10月、志を同じくする仲間とケイリーパートナーズを設立した。

「1日2時間から働く」というビジネスモデル。これには鷲谷さんの原体験があった。

 鷲谷さんは福島県郡山市生まれで、早稲田大学政治経済学部卒。卒業後はJR東日本に就職したが、育児を機に会社を辞め、専業主婦になった経験を持つ。福島第一原発事故が起きたのは、長女が5歳、次女が1歳のときだった。原発から70km離れた郡山市も放射線量は高く、子どもを守ることで精いっぱいだった鷲谷さんは、自身のキャリアなど頭からすっぽり抜けていたという。

「震災後は子どもたちの健康が心配で、外の世界を見る余裕なんてありませんでした。それは他の親たちも同じ。自主避難で幼稚園の友だちも3分の1にまで減ってしまったんです。しばらくして、その子たちが避難先で原発いじめにあっていると知りました。娘が『怖くて福島から出られない』と言って泣いたんです。こんなに小さな子が未来に希望を持てないなんて、とんでもないことだと思いました」

 何かせずにはいられなかった。しかし、夫が単身赴任の鷲谷さんは、いわゆるワンオペ主婦。使える時間は限られていた。そんなとき、義援金を届けるボランティアをしていた知人から、手伝ってほしいと誘われた。

「1日2時間ならできると思いました。子どもを幼稚園に送って家事をして、迎えに行くまでの2時間」