列車の扉数に合わせて
動く新型ホームドア
続いてホームドアも非常にユニークだが、それを理解するためには少々、説明が必要だ。
ホームドアは大きく「フルスクリーン(フルハイト)」と「ハーフハイト」に分けることができる。山手線や京浜東北線など現在、主流のホームドアがハーフハイト、新交通システムや地下鉄南北線などに導入されたホームドアがフルスクリーンだ。
初期はフルスクリーンが主流だった。ホームと線路を分離して安全を確保するというホームドア本来のイメージとしても、こちらが「正統」だ。
ただフルスクリーンは高さが天井まであるため大掛かりで費用も高い。営業中の路線に後付けするのも困難(ソウル地下鉄など後付けした事例はある)なので、ホーム上に据え付けるハーフハイトタイプが開発された。運用の結果、安全性は同等と判明し、こちらが主流となった。ちなみにハーフハイトは高さ1.3メートルで、故意に乗り越えるのは困難な構造だ(ただし乗り越えた事例は存在する)。
当初はフルスクリーンタイプをホームドア、ハーフハイトタイプを「可動式ホーム柵」と区別していたが、今では共にホームドアと呼んでいる。こうした中でフルスクリーンホームドアが新規開発されるのは異例だ。
ホームドアが抱えるもう一つの問題はホーム上の開口部が固定され、あらかじめ決まったドアの枚数、配置の車両しか停車できなくなる点だ。東京圏では車両規格を統一する傾向があるが、大阪圏では4ドア車両、3ドア車両、2ドア、1ドアの特急車両が混合して用いられている。
そのためロープが上下に昇降するホーム柵を開発し、大阪駅の一部ホームにも導入しているが、機能に制約や限界がある。そこでフルスクリーンかつ複数の扉に対応したホームドアの開発に着手したのである。
これはうめきた新駅から延伸する形で2031年に開業予定の「なにわ筋線」も関係する(https://diamond.jp/articles/-/286096参照)。同線は西本町(仮称)駅で分岐し、JR阪和線と南海電鉄に直通するため、規格が異なる南海車両がうめきた新駅にやって来るからだ。
新型フルスクリーンホームドアは、ふすまをイメージすると近いかもしれない。上部(鴨居=かもい)からつり下げた「親扉」が、敷居に沿って左右に移動するとともに、両側から「子扉」を出し入れして自在に開口部を作る仕組みだ。
残念ながら筆者は現地報道公開に参加できなかったので実物を見ていないが、ニュース映像を見る限り動きも速く、実用性は高そうだ。
JR西日本によれば、営業中の駅であっても「ホームドアの重量に耐えられる天井があるなど、一定の条件をクリアする駅であれば技術的には設置可能」とのこと。鴨居にあたる部分を設置した後、親扉を上部からつり下げればよいので、通常のものよりも工事しやすいのは間違いない。
同社は今後、「うめきた新駅での運用状況を踏まえ、同様に多車種が乗り入れる駅への展開の可能性も検討」しつつ、昇降式ホーム柵の選択も排除せず、必要や構造に応じて使い分けていくという。
ここ数年、各社のホームドア導入計画が急速に進展しているが、さらにもう一段階の設置拡大にはドア数の異なる車両が運行される路線への対応が不可避だ。
当連載でも以前取り上げた(https://diamond.jp/articles/-/307644参照)ように、JR西日本は自社開発技術の外部販売を積極的に進めているが、「新型フルスクリーンホームドア」は早くも商品リストに加わっている。他社にとっても有力な選択肢の一つになることを期待したい。
10段落目:「2023年春から1年間」→「2023年春から1カ月間」
(2022年12月20日15:25 ダイヤモンド編集部)