地方銀行最大手の横浜銀行などを傘下に持つコンコルディア・フィナンシャルグループ(FG)。同社のIR(投資家向け情報提供)は、日本IR協議会の「IR優良企業賞」や東京証券取引所の「資本コストや株価を意識した経営」の好事例集に選定されるなど定評がある。地銀業界で特に注目が集まっているのは、PBR(株価純資産倍率)やROE(自己資本利益率)のロジックツリー、企業への貸し出しなどのリスクに対してどれだけ収益を上げられているかを示すRORA(リスクアセット利益率)の重視を掲げたことだ。長期連載『経営の中枢 CFOに聞く!』の本稿では、財務担当の小野寺伸夫代表取締役に、ロジックツリーを公表した経緯や海外投資家との対話方法について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
RORAとレバレッジ比率を重視
あらゆる取り組みが2指標に表出
――コンコルディア・FGの財務担当取締役として、最も重視しているKPI(重要業績評価指標)は。
ROEを高めていくという意味で、RORA(銀行が保有するリスクに対する収益率を示す)とレバレッジ比率です。
相対的にRORAの高いストラクチャードファイナンスの残高の積み上げや与信費用のコントロール、戦略的投資など、さまざまな取り組みの結果として表れるのがRORAとレバレッジ比率です。
ROE=当期純利益÷株主資本=RORA×レバレッジ比率
RORA=当期純利益÷リスクアセット
レバレッジ比率=リスクアセット÷株主資本
――今年度、中期経営計画などでRORAを掲げる地方銀行が相次いでいます。そのきっかけは、コンコルディア・FGが2023年前半にPBRロジックツリーを作成し、RORA改善を掲げたことが大きいです。
われわれがPBRロジックツリーを公表した数カ月前に、東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営」を要請するメッセージを出しました。公表のタイミングが近かったので、東証の要請を受けてロジックツリーを作ったと解釈されることもありますが、そうではありません。もっと前から議論を重ねていなければ、中身のあるロジックツリーは出せません。
23年度に公表したPBRロジックツリーの源流は、18年のリスクアペタイト・フレームワーク(RAF、経営が進んで引き受けようとするリスクの種類と量を明確化し、経営管理やリスクコントロールを実行する枠組み)の導入にさかのぼります。
RAFはリスク管理部門の所管で取り組んでいましたが、当時は資本の枠内にリスクが収まっているかどうかの検証にとどまっていたので、いろいろと問題意識が生まれました。
一つは投資銀行業務を始めたことがきっかけです。投資銀行業務を進める中でリスク・リターンの優劣が見えてきたので、リスク・リターンを踏まえてアセットを組み替える必要性を徐々に実感していきました。
もう一つは市場部門の運用です。市場部門にもRAFを導入していましたが、結果として大きな損失を抱えてしまいました。
当時はマイナス金利で収益が悪化し、あまり建設的な議論ができていませんでしたが、本来であればリスク・リターンを踏まえたアセットの組み替えについて議論を深めるべきでした。
そこで、22年度の取締役会における年間テーマの一つを「リスクアペタイト・フレームワークの高度化」とし、経済資本や規制資本などの配賦と財務予算の連動性を高めようと議論し始めたのです。このような議論を深め、部門別配賦資本の最適化や部門別リスク・リターンの向上について方向性を整理した結果、23年度に中身のある形でPBRロジックツリーを公表できました。
――PBRロジックツリーを掲げてから1年半が経過しました。ROEやRORA、レバレッジ比率の成果をどう振り返っていますか。
小野寺氏はPBRやROEのロジックツリーを示す上では「投資家からの遠慮のない、ストレートな対話に応じる覚悟が必要」だと強調する。その発言の真意とは。次ページでは各指標の成果や、大型の自社株買いや買収に踏み切った財務面での根拠、海外投資家との対話模様、参考にしているCFO(最高財務責任者)などについて聞いた。