【セーフティーネット】
に関わる6つの命題

13. 価格介入する物価対策は資源配分を歪め、同時に富裕者をより多く援助する
14. 子どもの教育と親の介護を家庭に求めると、子ども
と結婚が減り家族が痩せる
15. 福祉を企業に求めると、企業は正社員雇用に消極的になり正社員層が痩せる
16. 個別の価格介入政策は近視眼的な国民、官僚、政治家、業界に好まれる
17. 現物支給やクーポン券よりも同額の現金の方が効用は大きい
18. 現金給付政策は追加的にお金を配っているのだから必ず財源がある

 ガソリン代、電気代の補助のような物価対策は、富裕者に対する補助効果の方が大きいし(アパートの一室よりも豪邸の方が電気代は高い)、価格メカニズムを歪めている(13)。例えば、少し前までは炭素税による価格上昇を通じて環境を守ることが検討されたのではなかったか。SDGs(持続可能な開発目標)は、それ自体はいいことだが、金持ちが気まぐれに行う寄付のように頼りないことが分かる。

 人的投資や福祉・セーフティーネットにあって家庭の役割、企業の役割を重視するほど、重い負担を嫌って家庭も企業も痩せていく(14、15)。家庭や企業を健全に守るためにも、国のセーフティーネットが重要だ。いわゆる「保守派」の人々もそろそろ気付いた方が賢いのではないか。

 ガソリン代のような個別商品の価格対策にお金を使うよりも、困窮者にのみ現金で補助を行って、お金持ちには価格を見て消費を考え直してもらうといいことが、予算の面でも資源配分の面でも明らかだろう。

 しかし、「自分に今よりもメリットがあること」を評価してとりあえず満足する国民と、個別の対策で「やっている感」や相対的なメリットが得られる官僚・政治家・業界など多くの関係者が喜ぶ個別対策は、メンバーが近視眼的利益にのみ反応する世界では多数に好まれ、実現する(16)。妙に安定的な「愚民均衡」が方々で成立する。全体の効率性やよりよい調整の可能性は「近視眼的視野」の外にあり、検討の対象にならない。

 さて、子ども1人にひと月2万円補助するとして、「教育クーポン」や衣料、食糧などの「現物給付」よりも、同額の現金の方が個々の家庭で最も有効な目的に使える。従って、受け取った側の効用はより大きい(厳密には「決してより小さくならない」)はずだ(17)。給付のコストも小さいだろう。

 国民の支出に対して政府は余計な介入をしない方がいい。補助するなら国民を信じて現金を渡そう。