C社長は腕組みをしながら言った。

「営業しか経験のない彼に他の業務をやらせるのは無理だろうし、人手も足りている。就業規則の定め通り休職してもらうしか方法がないね」
「そうですよね……」

 と言いかけたB課長は、再びひらめいた。それは……

免停中の営業マンでもできる仕事とは?

「いらっしゃいませ!お部屋にご案内します」

 Aは休職期間中、生活費を稼ぐためにC社長の許可を得て、B課長の実家である老舗温泉旅館「はなやぎ」で住み込み客室係として働くことになった。人手不足で困っていた女将(B課長の母)は、B課長から「しばらく部下を働かせてほしい」と頼まれて快く承知したのだ。

 笑顔できびきびと接客するAをとても気に入った女将は、仕事が終わると、

「会社なんか辞めてウチにいらっしゃいよ。何ならウチの娘(B課長の妹)と結婚して後を継いでもらいたいわ」

 と迫り、Aはそのたびに苦笑いを浮かべた。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。