円高ピーク前でもドル建て資産投資を、インフレ時代の新・投資ルールPhoto:PIXTA

主要国の中央銀行の利上げでインフレはピークアウトしつつある。しかし、サプライチェーンの見直しや人手不足の長期化による供給制約でインフレが再燃しやすい状況が続き、高めの金利が維持される。今後は、ディスインフレ時代の投資ルールをリセットする必要がある。(クレディ・スイス証券株式会社 ウェルス・マネジメント チーフ・インベストメント・オフィサー・ジャパン 松本聡一郎)

残る供給制約で再燃しやすいインフレ
高めの金利が長期間維持される

 2022年、世界中が値上げラッシュの年だった。財やサービスにおける供給と需要のバランスが、広範囲にわたり崩れたことが主な要因である。日本は需要の力強さには欠けたが、円安が値上げに拍車をかけた形となった。

 23年が始まり、需給関係には改善の兆しが出始め、物価上昇(インフレ)の勢いもピークアウトし始めている。供給の目詰まりが改善してきたことに加え、中央銀行が利上げにより需要を抑制する努力を続けてきたためだ。

 これにより今年の経済成長は大きく減速し、主要先進国は潜在成長率を下回る水準となるだろう。この景気低迷が中央銀行の政策転換を促し、果たして景気下支えのため利下げ実施を決断させるだろうか。答えは否(ノー)だろう。

 その理由は、供給上の制約が残り続けることである。食料やエネルギーは、ロシアとウクライナの戦争が長期化していることが供給回復の障害になるだろう。

 暖冬の影響で足元のエネルギー需給は緩んでいる。しかし問題が解消したわけではなく、仮に戦争が終結してもロシアやウクライナからの食料やエネルギーの輸出回復にはかなりの時間が必要となり、代替となりうる供給元を見つけるのは難しいだろう。景気回復で需要が本格的に回復すると、すぐに供給不足となるだろう。

 財の生産では、権威主義と民主主義の価値観の対立がグローバルなサプライチェーンの運営に影響を及ぼしていくだろう。安全保障だけでなく経済面でも、異なる価値観を有する国の間では相互依存を抑制する方向に作用し、既存のサプライチェーンは規模の縮小や見直しを迫られるだろう。

 また、生産拡大のためには、新たな投資が必要となりコストアップ要因となるだろう。景気回復で需要が急増すれば、供給不足と価格上昇の問題が再燃していくだろう。

 労働力の面では、世界的な少子高齢化の進展で、人手不足が長期化するだろう。リタイアした人も含めた消費人口に対して、生産やサービスを提供するために働く人の数が構造的に不足することになるだろう。

 高齢化でシルバーエコノミーが拡大し介護サービスなど人手のかかる事業の需要が伸びることが、この問題をより深刻化していくだろう。対処策としては、新しいテクノロジーを活用した生産性向上が挙げられる。しかし、賃金の上昇に加え、投資負担増が価格上昇へと転嫁されていくだろう。

 グローバル化の時代とは異なり、今の時代には供給拡大には大きな制約がある。このため拙速な需要刺激策の実施はインフレを再燃させるリスクが大きいのである。このためインフレがピークアウトし、利上げが停止された後も、より長く高金利が維持されていくと考えている。

 このような経済構造の変化に合わせて投資戦略をどう見直すべきか。次ページ以降、市場の動向を踏まえ検証していく。