一時金は、サラリーマンが加入する健康保険組合や、自営業者などが加入する国民健康保険から支給されるもので、その原資は、原則的に加入者から集めた保険料だ。健保・国保のいずれの組合も厳しい財政運営を強いられている。そのため、過去の出産育児一時金の引き上げ時は、平均的な出産費用に沿う形で、給付額が決定されていた。

給付金の引き上げで対応しても
いたちごっこに終わる可能性が高い

 今回の見直しも、当初は40万円台の半ばまで引き上げることを目指していた。だが、岸田首相自らが大幅な増額を指示したことで、政治判断によって、出産費用の平均を上回る50万円という給付額が決定したのだ(産科医療補償制度に未加入の医療機関で出産した場合などは48万8000円)。

 財源は、これまでは主に現役世代の健康保険料で賄っていたが、増額分を捻出するために、2024年度からは75歳以上の後期高齢者医療制度からも、一定の負担をすることも併せて決められた。

 今回の出産育児一時金の見直しは、制度創設以来、最大の引き上げ幅となっており、出産費用の負担軽減が期待できる。これから子どもを持つ人たちにとっては朗報だろう。

 だが、原則的に、妊娠・出産にかかる費用は健康保険の適用外となっているため、妊婦健診費用や分娩費などは、その施設が自由裁量で決めている。帝王切開などを除いて、自然分娩の費用については、高額療養費も適用されない。

 前述したように、出産費用は、年間平均1%前後増加しており、このペースで増加を続けると、5年後には再び、出産費用は一時金を上回ることになる。そうなれば、今回、給付額を引き上げても、再び子育て世代の負担が軽減されることはなく、いたちごっこを続けるだけになる可能性が高い。