誰かを「推す」ことこそが
人々にウェルビーイングをもたらす

 さらに、YouTube発の匿名性の高いアーティストは、「Nobody」の特質につながるのではないだろうか。「何者でもない」人が、突如YouTubeでバズったりする時代だ。顔を隠したステージングは、面をかぶって舞う、日本の伝統芸能「能」を連想させる。

 石川氏と吉田氏は、こうしたアイドルやアーティストなどを「推す」行為こそが、人々にウェルビーイングをもたらすのではないか、と言う。

 異性のアイドルを推している人であっても、特に「恋人にしたい」と思っているわけではないという。歌やダンスのより高いパフォーマンスを求めない人も多い。ただ「いてくれる」だけでファンの側も幸福になれるのが、現代の「推し」なのだ。

「推し」の対象はアイドルやアーティスト、俳優に限らない。人でなくても、自動車やスマホなどのデジタルデバイスでもいい。何かしら「大切なもの」を見つけることがウェルビーイングにつながるのだと、本書は教えてくれる。

「満足と幸福」を得るには、旅に出るのもおすすめだ。しかも何かを「する」のではなく、ただ場所を楽しむために遠くに出かける。そうすれば「いるだけ」の自分になれる。

 本書から、現代の日本で、何が「価値」になるのかを読み取っていただきたい。

(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)

情報工場
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【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。
4段落目:「石川義樹氏」→「石川善樹氏」
(2023年2月1日10:18 ダイヤモンド編集部)