さてここで、大間のマグロについて少し説明しよう。大間のマグロが獲れる大間漁港とは、本州最北端の地、青森県下北郡大間町にある。そのマグロとはクロマグロで、別名がホンマグロともいわれる。マグロの中では最も大型の種類で、その希少価値から「黒いダイヤ」とも呼ばれている。

 大間漁港が面する津軽海峡は日本海と太平洋の間を結ぶ位置にあり、黒潮、対馬海流、千島海流と3つの海流が流れ込み、マグロが食するイカ・サンマ・イワシなどの魚類が豊富に泳ぎ、プランクトンも潤沢で豊かな漁場だ。そのため、大間漁港で獲れる水産物はいずれもが身が大ぶりで、かつ締まっており、うまみが濃厚になるのだ。

 大間で揚がるマグロの赤身の特徴は、食するとまず最初に、口溶けの良い群を抜く豊潤な脂の甘みを感じることだ。そして、後から濃厚なうまみとかむごとにマグロのほのかな酸味が絡み合い、うまみが混然一体となって押し寄せて重なり合う。

 中トロや大トロであれば、さらにこの脂が何層にもわたり引き立つ。その上質な脂は食べ続けてもさらっとした独特の味わいで、よく言うマグロ特有の「脂が乗ってうまい」とはかけ離れており、舌にねっとりとはまとわりつかない。赤身部分は他のマグロと比べてもコクとうまみが濃厚で、決してしょうゆにも負けない。

 なお、鮨銀座おのでらが提供する大間マグロには、隠し包丁が入っていて食べやすく、煮切りしょうゆが塗られていた。見た目も身の色が濃く、鮮やかな色合いで、他のマグロよりも赤さが黒みがかってさえ見えるのだ。

 最後に大間のマグロに“ある真実”を吐露する。大間のマグロは、例年8月頃から1月くらいまで釣れる。水温が低くなる秋から冬にかけてが、マグロ漁の旬である。

 であるならば、大間のマグロ、その初物は8月だ。しかし、テレビ番組でも見られるが、年間1本も釣れない漁師も数多くいる。一獲千金を狙い、荒波に勝負をかけ兼業する者が多くいるのだ。しかも必ず、大間が一番マグロになるとは限らない(2011年は北海道・戸井漁港〈大間と戸井は、その距離20kg弱〉、342kg、3249万円。それ以降から今年までは大間)。

 1月の初競りにかかるマグロは、年末年始の6日間だけに水揚げされた物のみ。だからこそ、大自然の大海原から引き揚げられたお宝といえる1本のマグロは値打ちが高く、かつその希少性も他には類を見ないのだ。

 同店では2貫であったが、やはり大間産の初物ということもあり、その味わいを十分に堪能することができた。

 この縁起の良い一番マグロにあやかり、今年一年をより良いものにしたいと思い店を後にした。